筋肉無双〜スキルを奪われて勇者パーティーを追放された俺だが、筋トレしまくったら世界最強になった件〜

さるたぬき

第1話 そうだ、筋トレしよう

 俺の名前はレンジ。ハムストリング・レンジだ。18歳の男だ。

 幼馴染のロイドがリーダーをやっている勇者パーティー【白銀の剣】に所属している。


「お前はクビだ。ここで死んでもらう」


 Sランクダンジョン探索中に突然ロイドにそのようなことを言われて俺は困惑する。


「えっ……」


 何を言われたのか一瞬分からなかった。

 ダンジョン探索中にクビを宣告されるなんて初めての経験だった。


「ど、どういうことだ? ロイド。今死んでもらうとか物騒なことを言ったように聞こえたが」


「そのままの意味だ。お前にはここで一人残って、死んでもらう。ダンジョン探索中の不慮の事故ということで処理する」


「ますます意味が分からない。おいビビアン。お前からもロイドに何か言ってやってくれ」


 俺はロイドの斜め後方で腕組みしながら立っていたビビアンに助けを求める。

 黒髪をかき上げ、その切れ長の目で俺を見下しながらビビアンは言った。


「貴方みたいな役立たずはこのパーティーに必要ないのよ。大人しく死んで頂戴」


「ええ……」


 ビビアンにも辛辣な言葉を言われてしまった。


「ア、アイン……」


 俺は縋るように少女のような見た目だが、このパーティーの最年長であるアインに視線を向ける。


「目障りですぅ。死んでくださいですぅ」


 よるべもない。

 満場一致でパーティーメンバーに死を望まれていた。

 な、何故だ。どうしてこんなに嫌われているのか、全く身に覚えがない。


「どうしてだ? 俺は出来る限りのことをやって、みんなの役に立ってきたと思ってるんだが……」


「お前が強化付与した後は身体中が痛えんだよ!! クソが!!!」


 ロイドが激昂して俺を罵倒する。


「他の付与術師が仲間にいる冒険者の方々に聞いたら、そんなことは起こらないと仰っておりましたわ。付与対象者をそんな状態にしてしまうのは3流の証だと」


「レンジは無能ですぅ」


 ビビアンとアインが追撃してくる。

 だが俺は、何だそんなことか、とほっと胸を撫で下ろした。


「それはお前たちを強くするためだよ。限界の少し上の魔力強化と肉体強化を施すことで魔力回路と筋繊維はズタズタに損傷するけど、休ませて、回復したら損傷する前より強靭なものになる。超回復と呼ばれる現象だよ」


 前にも一度説明した記憶があるけど、どうやらみんな忘れてるみたいだ。

 そのお陰で冒険者になってからの数年でかなり成長した筈だが気付いてないのか。


「言い訳はいらねえんだよ!!」

「救いようのないクズね」

「みっともないですぅ」


 三者三様に罵倒してくる。これはちょっと傷つくぞ。


「強くしてるだあ? 何様のつもりだレンジ。たまたま貴重な強化付与スキルが使えるから仲間にしてやったのに、恩を仇で返しやがって」


「待て、俺の強化付与スキルのお陰で助かった場面は沢山あった筈だ。ここで俺を追放するのは適切な判断とは思えない」


 俺は再度説得を試みるが、聞く耳持たないという感じでロイドがポケットから何かを取り出す。

 紫の魔石が嵌め込まれた指輪だ。それを左手の薬指にはめる。


「それは……まさか!」


「ヒャハッ! そのまさか、さ。人のスキルを奪取して使えるようにする聖遺物【魔奪まだつ指輪ゆびわ】……!! この前のダンジョン探索でお前が見つけたものさ」


「何故それをお前が持っている」


 冒険者がダンジョン探索中に発見した聖遺物は国に提出することになっている。個人が扱うには強力すぎるからだ。それを破った者には罰則が与えられる。


「……俺の送った報告書を揉み消して、奪ったのか。馬鹿なことを」


「まだそんな減らず口が叩けんのか。状況が分かってないみたいだな。お前はスキルを奪われて、ダンジョンの奥深くに1人で放置されて、孤独に死ぬんだよ」


 下卑た笑みを浮かべるロイド。

 くすくすと他の2人も笑っている。

 どうやら説得は無駄なようだ。俺は諦めて両手を上げる。


「いいよ。早くやれ」


「ハッ、強がりやがって」


 ロイドが指輪の持つ手を握りしめると、眩い光が周囲を包む。

 光が止むと、俺のスキルは無くなっていた。


「強化付与スキルはお前には勿体ねえ。俺が有効活用してやるから安心しな」

「やれやれ。これでようやくあのウザったい痛みから解放されるってわけね」

「よかったですぅ」


 3人は踵を返して、部屋から出ていこうとする。

 俺はただ呆然と立ち尽くしてそれを眺めている。


「あばよ。出来損ない」


 そんな捨て台詞を吐いて、3人は立ち去っていった。


「さて、どうしようか」


 強力なモンスターが蔓延るダンジョン内で無能力のまま取り残されてしまった。絶望的な状況だ。

 1人ポツンと部屋の中央で立ち尽くして、俺は思案する。

 いつだって俺はこの天才的な頭脳でこういう絶体絶命のピンチを乗り越えてきた。

 それから数分後に俺は最適解を導き出した。


「そうだ、筋トレしよう!」




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