未来より愛をこめて、よい終末を。
藤原くう
第1話
「……だれ」
そんな声に、
見れば、ヒトが立っている。
白髪の子どもである。JKの平均的身長よりも、いくぶん小さなからだを
男の子か女の子か、見た目ではわからない、中性的な子だった。
「えっと、その」
「どうしてそこにいるのか、説明して」
その子の言葉には、重みと鋭さがあった。
思わず、蓮花は心臓を抑える。
心が痛くなってきた。
「
「違う。そこにいる理由を聞いている」
「あ、はい」
蓮花はぺこぺこと頭を下げる。
見た目だけなら蓮花よりも幼かったが、カラダから湧きあがるオーラは子ども離れしていた。
「どこから説明したらいいんだろ」
「最初から」
「わかりました……」
いつの間にか敬語になってしまった蓮花は、これまでのことを説明しはじめた。
空にUFO、地には
同時多発的にあらわれた不可思議な存在は、大都市へと侵攻を開始した。
最初はだれもが信じなかった。夢か幻、あるいは合成写真だと思っていた。
気がついた時には手遅れだった。
突如として出現したUFOはソーサーの底から光線をはなち、ビルをバターのように切り裂いていく。
アスファルトを割って出てきたドリル戦車が、走ってくるトレーラーを踏みつぶす。
海では、駆逐艦が触手にからめとられて、深海へと引きずり込まれていった。
ありとあらゆる場所で、似たようなことが起きていた。
目を開けると、天井に貼っていたポスターが鼻先にあった。
「うわっ」
パラパラとつぶてが落ちてくる。
蓮花はむせながら、ベッドを転がり、床へと手をついて降りる。
「なんで天井が」
蓮花の部屋は、見るも無残な状態だった。
床に散らばったガラス片、お気に入りのペン、ちぎれとんだ教科書……サイクロンでも吹いたかのような荒れ具合だった。
なにより、天井が低くなっている。
あと少しで、蓮花の眠っていたベッドさえも押しつぶしていたかもしれない。そう考えると、つま先が冷たくなる。
「お父さん、お母さん」
叫んだが、返事はない。
嫌な予感がした。その予感を振りはらって、蓮花は扉の方へ近づいていく。
扉はつぶされておらず、ドアノブも残っていた。
中腰になってノブを回し、押す。
だが、うんともすんともしない。
「あ、あれ」
ガチャガチャ乱暴に動かせども、引っ張ってもダメ。思いっきりタックルしてみたが、肩が痛くなっただけだった。
よく見てみると、扉のフレーム上部が変形していた。そのせいでうまく動かないらしい。
「どうしよう……」
このままでは、部屋から出られないし、助けを呼ぶこともできない。
お父さんとお母さんの無事を確かめることだって。
蓮花は、改めて状況を確認する。
割れたガラス片の向こうに、かすかに揺れるカーテン。
「窓が」
蓮花はスリッパを履き、ガラス片を踏みしめながら、窓へと近づいていく。
カーテンを引っ張れば、外がよく見えた。
火の手の上がる街。
波のように押し寄せる謎の光たち。
そして、庭のUFO。
「は……」
誰しもが見ただけでわかる、皿の上にひっくり返したカップを置いたような形。
アダムスキー型UFOからは、プスプス黒煙が上がっている。
遠くの空では、鋭角に動き回るUFOをミサイルが追いかけているのが見えた。ミサイルに
結果、家はつぶれ、庭にはUFOがいる。
蓮花は、目をゴシゴシ拭う。ほっぺもつねっちゃったりしたが、痛い。
そこにはやっぱり、UFOがいる。
「夢じゃない」
蓮花は、窓から屋根へ踏み出す。
ひんやりとした夏の夜風が、蓮花のクマさんパジャマを揺らす。
つるりと足を滑らせれば、3メートル下の庭へ落ちる。蓮花は慎重に歩いた。
屋根のヘリまでたどりつけば、手を伸ばせば届きそうな距離にUFOの皿の部分があった。
銀色のソーサーは、つるりとしている。よく磨かれているのか、燃えるビルがうつりこんでいた。
蓮花はスリッパを脱いで、裸足になる。
「う、動かないでね」
そうっと足を乗せても、UFOは身じろぎ一つしない。
両足を乗せた蓮花は、タッタッタと円盤の中心まで走った。
カップの垂直な壁に手をつくと、ふうと息をつく。今この瞬間に回転しだせば、JK一人分くらいは簡単に吹きとばせる。だが、安心感が違った。
「あとは、下りるだけ」
壁伝いに、くるりと回れば、柿の木が植わっている。その枝は頑丈だから、
そろそろと動き、あと少しで枝に手が届く。
そんなときにUFOが動きはじめた。
「あっ」
悲鳴も
短い声とともに、蓮花は回転しはじめた円盤に足を滑らせ、転んだ。
幸運だったのは、回転がまだゆっくりだったことと、中心に近かったこと。
そして、後方へと倒れていった蓮花のからだがカップへ激突し、その衝撃で叩きつけられた手が、UFOのハッチを開けるボタンを叩きつけたことだ。
つなぎ目のないUFOに切れ目が生まれたかと思えば、蓮花は中へと吸い込まれていく。
その時には、蓮花は気を失っていた。
自動的にハッチが閉じる。
黒煙を上げながらUFOは宙へと舞い上がった。
「――ってことがあったんだけど」
言いながら、
目の前にいる天使のような子は、
「嘘」
レーザーのような視線が、蓮花を貫いていく。
「転んで、たまたま緊急開閉ボタンを押してしまうという可能性は限りなく低い。――嘘を言っているなら正直に話した方がいい」
「だからっ! 正直に話してるってば!!」
「本当に? 嘘をついていたら」
「ついてたら……なんなの」
蓮花の言葉に、にこりと笑みが返ってきた。神様さえも
だが、それだけだった。それがむしろ恐ろしくて、蓮花はプルプル
「ワタシに危害を与えようとしないで」
「わ、わかった」
蓮花は両手を上げて、降参のポーズ。
ここがどこだかわからないが、目の前のあどけない子供に逆らっても敵わないような気がした。
「じゃあ、ついてきて」
「どこに行くの」
「ここを案内する。久しぶりに人にあったから」
そう言うなり、子どもは蓮花を置いて歩き出す。
蓮花はどうしようかと悩んだ挙句、UFOから飛び降りる。
こんなわけのわからない場所で一人にはなりたくなかった。
「ちょ、ちょっと待って! ねえ!」
「ワタシは『ねえ』ではない」
――ヒビキ、
その子は振り向きもせずにそう名乗った。
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