六月一八日

6時半。


健康的な起床時間だと思う。


まだ眠い目を擦りながら、ピンクのうさぎのステッカーが貼ってあるパソコンを開く。


ちなみにこのシールは俺の趣味ではない。


パソコンを起動している間にコーヒーを淹れる。


ガムシロップとミルクたっぷりで。


パソコンが起動し終えたので、メールをチェックする。


「始祖の神様…」


そのタイトルに目が止まる。


ドアのノック音が聞こえた。


…もしかして狐の迎え?だとすると早くないか。


《秋斗様ー秋斗様ー開けてくださいましー白丸と黒丸にございますー》


「うわ、まじか…」


ドアの前に立ち、こう述べる。


「近所迷惑なので大声を立てるのはやめてください。それから着替えるので、すみませんが5分ほど外で待ってください」


《承知いたしました》


すごく静かになったな。


外で待たせるのは申し訳ないが、仕方ない。


ぱっと用意を済ませて、ドアを開ける。


人力車…ならぬ、“狐”力車か。


「お待たせしました。…あれ、雪原さん?」


「秋斗くん、わたし、5時半に起こされたんだよお…」


5時半に来られるのはさすがに早いが、半泣きで言われてもどうにもできない。


「それで、白丸さん黒丸さん。なんでこんなにはやく…?」


《和装に着替えていただくためです》


ああ、なるほど。


だったら制服なんて着てくる必要なかったじゃないか。


ほら、雪原なんて制服を着たまま呆然としているぞ。


「わ、わたし、朝、起きて、制服…」


がんばったのにぃぃ、と横で泣き崩れる彼女。


さすがに可哀想だ。


《到着いたしました。お足元に気をつけて、お降りください》


「あ、はい。ありがとうございます」


「ありがとうございます…」


まだ少しぽやぽやした顔で萌柚が言った。


「椹木くん、支度がはやく終わったら寝るから起こして…」


そんな雪原に黒丸がきっぱりと言った。


「はやく終わることはございません」


その時の雪原の顔と言ったら……。

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