絶望の沼から
ふと右手を見ると、もう7時をまわっていた。
波留の家から抜け出した時、見えた時計が6時くらいだったから、もう今日は誰も追ってこないだろう。
思いの外長い間思想に耽っていたことに気づき、その間に追っ手が来なかったことに安堵した。
波留に言われて、能力を親の前で使わなかったことが功を奏したようだ。
指輪を外し、式神の名を呼ぶ。
「大蝦蟇」
俺が使役できる式神はこれだけだった。
ー グェッ
宙が裂け、ヌメヌメとしたカエルが、その切れ目からのたりと出てくる。
こんな低級の妖でも十分に意思疎通は取れる。
「家まで行って、俺の荷物全部と
ー グェッ
了解した、と頭の中で声が響く。
ありがとうと呟きそれを見送った。
蝦蟇が戻ってくるまでにホテルを探すか。
⭐︎ ⭐︎
コンビニで夕食を買った後、ホテルの部屋に戻る。
蝦蟇が取ってきてくれた、通帳とパソコンと睨めっこをしながらおにぎりを食べる。
俺単独の依頼で稼いだ金が数千万あった。
それに安心する。
なんとかひとりでもやっていける。
さっき、椹木一族が通う学校へは公衆電話から退学の連絡をしたから、そこの心配は無くなった。
俺を殺そうとした、錦小路家は京都が本拠地である。
さっき決めたように薬の元を辿るのはそこが一番良さそうだ。
薬を配布しているのが四神官だと言うことから、四家全員、四神官までもが人前に出てくる四神大祭のときまでに製造元を見つけて、四神大祭でそいつらを殺せばいいじゃないか。
波留、それでいいか?
宙に一人問う。
答えは返ってくるはずもなかった。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
瞼の裏が赤く光った。光が差しているのだった。
小さなサイドテーブルの上でそのまま寝てしまったようで、昨日のまま散らかった机と、綺麗なままのベッドシーツがあった。
せっかくならベッドで寝れば良かったと思いつつ、シャワーでも浴びようかと立ち上がる。
自然にあくびが出た。
小さく伸びをし、シャワールームに向かう。
昨日フロントでもらったバスソルトがあったのでそれを入れてから湯を溜めた。
昨日の考えをまとめる。
京都が薬の製造場所だとしたら、いっそのこと京都で暮らそうか。
いつまでもホテルにいるわけにはいかないし、学校へも行きたいし。
危険が近い東京で暮らすのも嫌だ。
伏見の方に錦小路家と提携している私立の学園があるのだけれど、そこで大丈夫だろうか。
迷うのも面倒くさいので転入手続きを申し込む。
ものの数分で返信が来て、明後日以降転入可能だと言われた。
登校できるのは水曜かららしいけど。
やけに早くて、裏があるのかと疑ってしまう。
まあ、錦小路家と提携している時点でどうなのかと言われればそれまでだけれど。
明日中に伏見まで行くことにした。
昨日コンビニで買った残りのサンドイッチを開ける。
そのまま魂が抜けたように一日を過ごし、新幹線に揺られ京都伏見区に着いたのだった。
今日もまた、雨だった。
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