4日目 カップラーメン

 天国に来て4日目。

 

 ベッドで寝転びながら考える。

 そろそろ買い物に行かなければ、と。


 特に部屋で食べる用のカップラーメンが欲しい。


 ホテルの食事は確かに美味しい。

 しかしそれだけでは飽きてくるのが人間である。


 それに新しい服なども欲しかった。


 おれは生活を豊かにするため、街に買い物に行くことにした。


 街には大きな、複合商業施設があるようだった。


 ──────


 道中、焼き鳥屋や、ブティック、ラーメン屋があるのを横目に、街を歩く。


 都会っぽい。

 しかし人はそこまで多くなく、丁度いい。


 東京は人が多すぎたからな。

 このくらいが丁度いい。


 少し歩くと階段があったので、登ってみた。

 真ん中に噴水のある、大きな広場に出た。


 噴水を取り囲むようにベンチがあり、そこに座って新聞を読んでいる人や、本を読んでいる人がいる。


 その前を散歩している犬とその飼い主さんが通り過ぎ、ランニングしている人がそれを追い越す。


 街だ。

 ここは街だ。


 ここで生活している人がいる。


 そんなことを感じた。


 久々に見た日常風景かもしれない。

 ホテル生活はおれにとって、日常とは程遠いから。


 だから何だかホッとした。


 気候も丁度いいし、

 意外と外に出てみると楽しいもんだ。


 広場の先にあった、大きな図書館を通り抜け、複合施設の中に入った。


 おれが入ったのはF入口。


 入って右手には、家具店。

 左手には、寝具専門店。


 忘れないようにしなければ。

 忘れたらきっと迷ってしまうだろう。


 『ご来店のお客様に、ご案内申し上げます』

 施設のアナウンスが入る。


 何だかこういうの久々だな。


 とりあえずどんな店があるか見るため、案内板を探すことにした。


 

 雑貨屋に、映画館、ゲームセンター。


 案内板はすぐに見つかった。

 案内するためのものだから、そうでなければ意味がない。

 

 ゲームセンターにも惹かれたが、場所的に雑貨屋の方が近い。

 とりあえず雑貨屋に行ってみることにした。


 目当てのものがあるわけじゃない。

 強いて言えばカップラーメンだけ。


 目当てのものを決めるにはまだ、情報が足りない。


 何を売っているのか。

 天国にはどういうものがあるのか。


 それを知るため、雑貨屋に向かった。


 それにしてもすごい人だ。

 この街にこんなに人がいたのか。


 東京は人が多すぎると言っておいてなんだが、久々の人混みになんだか安心する。


 おれって矛盾することばっかりだな。


 そして、たくさんの人とすれ違い、雑貨屋についた。入り口には、おしゃれな香水などが並んでいる。


 それを横目に奥へ入り、何があるか見ていく。


 ハンディファンや、水鉄砲、陶器でできた犬の置物、筆記用具類。


 生前とラインナップはそこまで変わらないようだ。


 少しガッカリだった。

 天国なら、もっと面白いものも出ていると思っていたのだが。


 ひとつだけ、生前と大きく違う点を挙げるとするなら、それは、すべてタダということ。


 つまり生前では、高くて躊躇するような品も自由に買うことができるのだ。


 本当にありがたい。


 どうしてタダなのか。


 昨日改めてホテルの人に聞いたのだが、天国には、人が作ったわけではないのに、初めから建物などが存在し、その建物内のものはタダらしい。


 つまり、生前で言うと、川の水がタダであるように、天国に元々ある建物や商品などはタダなのだ。


 商品は買われた瞬間、どこからともなく補充されるらしい。


 そして逆に、有料の商品も存在する。


 それは、天国に元々ないもの。

 つまり、ハンドメイドの商品などだ。


 ただ、そういったものは少なく、特にこの複合商業施設に限って言うと、天国備え付きのものしかないから安心である。


 そうして商品を見ていくと、面白いものがあった。


 かっこいい砂時計である。


 地球儀のように、宙で固定されており、砂が落ち切るとクルリと回る。


 買おうか……


 しかし買ってもすぐに飽きそうだ。

 砂時計を使う用事もないし……


 カップラーメンの時間を測るのに使えるか…?


 悩んだ末、必要ないので買わないことにした。


 バイキングで、食べないものは取らないのと一緒である。


 結局、実用的な、デザインの気に入ったコップ、ワイングラスや皿などの食器類と、筆記用具、傘、本に挟む栞を買って、おれは雑貨屋を後にした。


 特に、万年筆などは、高くて良さそうなものを買ったので、帰って使うのが楽しみだ。


 ──────


 その後、服などを買って、お腹が空いてきたのでフードコートに来た。


 今日はラーメンを食べようと思っていたのだが、鉄板焼きのハンバーグの店がとてもいい匂いだ。


 ジューシーな匂いを出している。


 おれはたちまち、ハンバーグを食べたくなって、店に並んだ。


 ハンバーグは鉄板に乗って提供された。


 タレはお好みでかける方式らしいので、たっぷりかけた。ジューっと、鉄板が音を立て、肉の香ばしい匂いが広がる。


 ナイフで切って、口に入れると、柔らかく、肉汁が溢れる。


 そこで白米を食べると、そのシンプルな味がタレとマッチして、とても美味しい。


 付け合わせのポテトも食べる。


 カリカリホクホクだ。


 ハンバーグに近いポテトは肉汁を吸って、それもまた美味しかった。

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