捻木秀一の願い

 そのアカウントは、「空代雲晴は消滅しました」という文を数十行にわたって書き連ねていた。ところどころに誤字脱字があることから、コピー&ペーストではなく一語ずつ打ち込んだことが察せられた。


「2月18日。雲晴さんに異変が起きはじめたという2月半ばと時期が一致する。わかるだろ姉さん。明らかに関係がある」


「……」


 守美はその投稿を読み終えると、割りもせずに焼酎を飲み始めた。一度目に注いだ焼酎をひと口で飲み干し、矢継ぎ早に次の一杯をグラスに満たした。


「家族を失う辛さなら俺も姉さんもよく知ってるだろ。だから姉さんもあの場で断ったら可哀想と思ったんじゃないのか。一子さんの場合、その辛さを誰とも共有できない。悲しみを自分一人で抱え込むしかない。そんなのあまりにも気の毒じゃないか」


 無言のまま二杯目のストレート焼酎を飲み干した守美は、溜め息に続いて絞り出すような声を上げた。


「…頭の中で響くんだ。絶対にロクなことにならないって。私もそう思う。嫌な予感がする。関わるべきじゃない。私の予感はいつも当たってきただろう?どうするんだ…秀一に何かあったら」


「俺なら大丈夫だよ。姉さんが守ってくれるだろ?いつだって姉さんは何があってもなんとかしてきたじゃないか」


「それは…」


「それにいざとなったら龍神先輩に頼めば大丈夫だって。な?調査しようよ、姉さん」


 守美は小皿に盛られた塩をふた口舐め、舌の上の塩を洗い流すようにストレートの焼酎を口に流しこんだ。こうして塩とともに酒を飲むことが守美はよくあった。守美はグラスを机に叩きつけ、やけくそ気味に叫んだ。


「ええい!わかったよ!可愛い弟の頼みだ!やってやるさ!その代わり!何か危ないことがあったらやめるからな!!」


「姉さん…!」


 守美は立ち上がり、茶色のコートをはためかせた。かなりの量のアルコールを摂取しながらも、その足取りは安定していた。


「まずは空代一子の話が妄想ではないかどうかだ。そろそろ放課後になる。中学生だという娘に話を聞きに行こう。娘の口から父親の話が出てきたら良いな。それと」


「秀一、そのアカウントの持ち主にDMしてみろ。無駄かもしれないが」

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