チェックメイト
彼理
祖父の遺言
「で、分かった?」
ここは羽場高校の図書室だ。この図書室は僕の所属している生徒の抱えている謎を解決するという探偵事務所を思わせる謎の部活の部室である。
一月二十一日火曜日。そこで僕ともう一人の部員がくだらないことを話していた時、一人の生徒が相談を持ち掛けてきたのだ。
彼女は僕にスマホの画面を見せてきて、そして「で、分かった?」と言ったのだ。
この女性は僕の知り合いだ。高校に入学してから、一年生の頭からの付き合いとなる
「先輩は僕を何だと思ってるんですか」
「名探偵だよ。だからこんな問題を持ち掛けてきたんでしょ?」
「嫌な勘違いです。あと、仮に名探偵だったとしても何をして欲しいのか言われないと何もできませんよ」
「お前がそれを言っても説得力がないんだよ」
中学からの同級生である
「それで、このメッセージが何なんですか?」
先輩が僕に見せてきたのは山下源清という人物からのメッセージだった。山下という姓から察するに先輩の血縁者の誰かなのだろう。その人物が先輩にこんなメッセージを送ってきたというのだ。
「我が家の秘蔵の暗号を解け、盤は茶室にある…………これだけで何が分かるっていうんですか」
「これだけ見せたのは冗談だよ、君なら行けるかなとも思ったけど」
「僕がいつエスパーみたいなことをしましたか。買い被りすぎですよ、いくらなんでも」
先輩は声を立てて笑う。そして、ようやくまともに説明をしてくれる気になったようだ。何回か見たことがある、人気者という皮で隠していない本来の山下先輩の顔でこちらを見てきた。
「じゃ、依頼始めまーす」
そんな軽い言葉で説明は始まった。こういう所を見るに、普段の山下先輩も一部は素なのだろう。
「まずこの山下源清ってのは私のおじいちゃんなんだけど昨日脳溢血で死んじゃってさ」
「ご愁傷さまです」
「思ってないこと言わなくていいよ。…………で、そのおじいちゃんが死ぬ前に私に送ってきたメッセージなんだよね、それ」
先輩の祖父が死ぬ前に送ってきたものか。まあ安直な発想を挙げてもいいのなら…………隠した遺産とかかな。それの場所を示す暗号をメッセージで送ってきたとか。まあまだ想像することしかできない。一旦は、話を全部聞いてから考えることにしよう。
「送ってきたのが一昨日の昼ぐらいなのかな?私はその時スマホ見れなかったし、疲れてたから見たのは昨日なんだけど。昨日の朝に見たのかな?変な文章だなって思ってたんだけど、学校から帰った後に病院から電話があって急いで病院に行ったらもう死ぬ一歩手前みたいな感じでね。実はもう土曜日からいつ死んでもおかしくないぐらいだったとか言われて。で、おじいちゃんが…………」
先輩はどこか物憂げな表情で呟いた。
「嘘ついてすまんの、あの暗号は解いとくれって言ってさ。まあその後すぐ、死んじゃったんだけど。それで私、このメッセージの意味が気になってね。おじいちゃんが私に何を遺そうとしてたのかとか、噓って何の事なんだろうとか、他にもいろいろと」
その言葉にこもる本気さから、多分、多分だけど先輩は山下源清のことが好きだったんだろうなと思った。先輩は推理小説を書くのが好きだ。確か読むのも好きだったはずだ。暗号を作るような祖父だ、きっと気が合っただろう。まあそんな人のパーソナルスペースにずけずけと土足で入り込むような真似はしない。僕はただこう言った。
「じゃあ、協力しますよ。僕が暗号を解きます」
遺言はどうしても頭に残る。それが自分にとって近しい人間のものだったのならばなおさらだ。せめてその靄が少しでも晴れるのならば、力を貸すことは惜しむべき事じゃないと思った。
先輩は笑顔を見せて立ち上がり、僕に感謝の言葉を口にした。
「ありがと。それじゃ、おじいちゃんの家に今から来てもらっていい?多分我が家っておじいちゃんの家の事だと思うから」
「分かりました」
「あ、一回家帰ってからでもいいよ?」
僕は首を横に振る。
「直接行きますよ。解決は早い方がいい」
山下先輩は微笑を見せた。
「ほんと、ありがとね」
「構いませんよ。俊徳、鍵は片付けといて」
俊徳は溜息をついて肩をすくめた。この件に関われない事や面倒くさい仕事を押し付けられたことに不満でも持っているのだろうか。彼はにやけづらを浮かべながらジト目で僕に言った。
「人使いが荒いこった」
「じゃあ僕の権限で命令ってことで」
「はいはい、やっとくから早く行けよ」
思わず少し笑いが零れてしまった。スクールバッグを持って立ち上がる。手を振って俊徳に別れを告げ、僕は山下先輩と共に羽場高校から出た。
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