第28話 光

 よくわからないで首を傾げていると、雅様は姿勢を正し私を見た。


「俺様の気持ちを疑うのは良い。それなら、逆に燃える」

「も、もえ?」

「それなら、わからせればいいだけのことだ。俺様がどれだけ、美月を愛しているかを――……」


 雅様が私の腰に手を回し、顔を近づかせる。

 少しでも動けば、唇がぶつかってしまう。


 心臓が、うるさい。

 雅様に聞こえていないか。いや、それより、こ、こここれは、寝不足の私には耐えることが出来ませっ――……


 ・

 ・

 ・

 ・


「むっ、寝たか」


 限界突破した美月は、雅の腕の中で気絶していた。

 そのことに微笑み、美月の額に軽く、口付けをした。


「ゆっくり寝るのだぞ、美月。俺様が守ってやるからな」


 ※


「――――んっ」


 温かい。なんだろう、ここ。

 私、今何をしているんだろう。


「んん……」

「起きたか?」


 ん? あれ、なんで雅様の声が聞えるの?

 私、今どこに――……


 ――――!?!?


 目の前に、雅様の、か、お?


「ひゃぁぁぁぁぁあ!?!?」

「おっと?」


 勢いよく顔を上げてしまい、ぶつかりそうになる。

 けれど、ひらりと雅様が交わしてくれたことでぶつからずに済みました。


 と、冷静に解説している場合ではありません!

 わ、わわ、私は今、雅様の膝の上で寝ていました!?


 な、なぜ? なぜ私は雅様の膝をお借りして寝ていたの?!

 なぜそんなことに? わからない、私は今まで何をしていたんだぁぁあああ!?


 ――――はっ、お、思い出しました。

 私は、雅様の王子様効果に負けてしまい、そのまま気絶してしまったのでした。


 あ、あれ? ということは、私、寝ていたの?

 そういえば、頭がすっきりしている。体も、軽い。


「あ、あの」

「なんだ?」

「私、寝ていましたか?」

「あぁ、もう夜だ。昼寝にしてはだいぶ寝たな」


 !?!?

 よ、よよよよよよ、夜!?

 夜ですか!? 私、昼間から夜まで寝ていたのですか!?


 今まで寝れていなかったから、さすがに体が限界だったのでしょう。

 そうだとしても、雅様の前でそこまで爆睡してしまうなんて、女性として情けない……。


「……ちなみになんですが、雅様の膝で私はずっと、寝ていたのでしょうか……?」

「俺様の腕の中で寝たからな。そのままの体勢だときついと思い、膝に頭を置いた」


 ずっとじゃないですか!


「お体は大丈夫ですか!? 痛くはなかったでしょうか、足は痺れていませんか? 姿勢がお辛かったでしょう! 私など放置してもよかったのに!」

「…………顔色、良くなったな」


 心配していると、雅様が私の顎に手を置き、上げさせた。

 漆黒の瞳と目が合い、体が硬直する。顔が赤くなり、思考が回らない。


「元気になったようで何よりだ」

「は、はい…………」


 確かに、元気にはなりました。

 ありがとうございます。


 って、そういえば、今まで眠ると絶対に見ていた夢を、今回は全く見なかった。

 しかも、一回も目を覚まさなかった。


 雅様を見上げると、笑みを浮かべ見つめ返してもらえた。


 ~~~~~~やめてください!

 またしても、顔を逸らしてしまった。


 …………今回夢を見なかったのは、雅様のおかげでしょうか。

 心から安心出来ていたということでしょうか。


 それかやっぱり、雅様は人を癒す力を持っているのでしょうか?


「照れているところ悪いが」

「口に出さないでください」

「少し、外に出てみないか?」


 ――――え、外?


 ※


 上に羽織を着て、雅様の手を取り外へと出た。


「わぁ、綺麗な満月」


 外に出ると、私達を照らす満月が空いっぱいに浮かんでいた。

 夜空に輝く、光。足元をしっかりと照らしてくれる。


 自然豊かな場所から見る夜空は、こんなに綺麗で美しくて、心休まる景色となっていたんですね。


「綺麗だろう。俺様も、疲れた時は一人で眺めるのだ」


 隣に来た雅様が、夜空を見上げながら教えてくれた。

 隣に立つ雅様。光を受け、儚く私の目には映る。


 ――――っ!


 こっちを向いて微笑む、今にも私の前から消えてしまいそう。


 ――――ひっ?!!


 バッと、雅様から目を逸らしてしまった。

 だ、だって、今、雅様に当たる月の光が、赤く、染まったような気がしたから。


 消えてしまう、死んでしまう……。

 い、いやだ、いやだ……。


「――――そうだ。屋敷の裏も綺麗な夜空を見上げることが出来るんだ。そこにも行ってみようぞ」


 震えている私の手を握り、雅様は歩きだす。

 いつもより、力が強い。雅様……?


「――――美月よ、大丈夫だ。俺様はどこにもいかぬ。それに、貴様も、俺様から離させん。離れたくとも、逃げたくとも、俺様はもう貴様を離すなど考えておらん。残念だったな」


 肩越しに振り向き、ニヤッと笑みを浮かべる雅様、かっこいい。

 ――――って、そうじゃない。


 離さない、本当だろうか。

 信じて、いいのだろうか。


「まだ、信じられんか。それなら、時間をかけて信じさせてやろう。これから共にいると、俺様から離れられないと。思い知らせてやるから覚悟しろよ」


 強気な表情を浮かべる雅様は、再度歩き出す。


「まぁ、そう思い知らせるためには、事前準備も必要だ」

「じ、準備?」

「あぁ」


 私の手を放さず、雅様は屋敷の裏へと歩き出した。

 な、何を考えているのでしょうか?

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