第26話 予知夢

 まただ、また私は夢を見ている。

 でも、今までとは違う。


『今回は背景がしっかりと見える』


 ここは、鬼神家の裏にある森の中だ。

 雨が降っている。地面もぬかるんで歩きにくい。


『ここって……えっ?』


 木に人の影。近づいてみると、怪我した人が項垂れていた。


『大丈夫ですか!?』


 声をかけるけど反応がない。

 死んでしまっている? いや、まだ息はある。

 私の声が聞こえていないんだ。


『一体…………っ!』


 改めて周りを見てみると、酷い惨状となっていた。

 刀が刺さり絶命している人や、腕や足を損失している人。それでも動ける人は立ち上がり、歩く。


『やめて! もうやめて!!』


 声を張り上げても、誰にも届かない。

 体を引きづり、歩き出す。


 なんで、辞めてよ、もう、やめて。

 これ以上無理をすると、死んじゃうよ。


『逃がさないと、み、やびさ、まを……』


 え、一人の武士が雅様の名前を出した。

 ――――風が!!


 雅様の名前が出た瞬間、風が視界を覆いつくすほどに舞い上がる。


 思わず手で顔を覆い目を閉じると、直ぐに風はおさまる。

 目を開けると、場面が切り替わっていた。

 森の中を歩く、雅様の姿。肩を抑えている、怪我をしたんだ。


『雅様!!』


 近付き、触れようとしたけれど、すり抜ける。

 これは、夢? 本当に、ただの夢、なの?


 ただの夢とは違う。

 これは、なに? 私は、何を見ているの?


 周りを見ていると、女性のすすり泣く声が聞こえてきた。

 雅様も気づき、警戒しながら声が聞こえた方へと歩く。


 どうしよう、止めないといけない。

 止めなければならない。それなのに、声を出しても届かない。手を伸ばしても、触れられない。


 そのまま、草むらへと行ってしまう。


『き、きさまはっ――ぐっ!!』


 雅様が驚きの声を上げると共に鮮血が舞い上がる。

 雅様の服が、赤く、染まる……。

 ふらつき、刀を地面に落としてしまった。


 膝を突き、血を吐く。


『あーあ。やっぱり、男性は女性の涙に弱いのね。これで、あの子は悲しむだろうなぁ~。不吉な子が、笑っているから悪いのよ』


 雅様を蔑み立っているのは、見覚えのあり過ぎる人物だった。


『な、なんで。なんで、そんなことを――――美晴、姉様』


 ※


「きゃぁぁぁあ!!」


 はぁ、はぁ……。

 見えた、わかった。


 これ、夢じゃない。

 まさか、力? 私の、力が芽生えたの?


『美月様!? だ、大丈夫ですか!? 何かございましたか!?』


 廊下から女中さんの声が聞こえる。

 私の悲鳴が聞こえてしまったらしい。


「大丈夫よ。少し、怖い夢を見てしまっただけなの。お騒がせしてすいません」


 言うと、女中さんは『わかりました』と、引いてくれた。

 今は中に入ってほしくない。今以上に心配させてしまうから。


「はぁ。はぁ……」


 心臓が痛い、汗が酷い。

 なんか、ものすごく疲れたような気がする。


 いや、そんなことより、今回の夢。

 絶対に、ただの夢じゃない。


 あんなにリアルな夢、普通なわけないし……。


「…………これって、桔梗家の力と、関係あるのかな」


 もしかして、予知夢?

 仮に、予知夢だったとしたら、美晴姉様が雅様の命を――……


 ――――ゾクッ


 い、いやだ、そんなの。

 想像すらしたくない。


 怖い、怖いよ……。


「ひっ……うっ……」


 こんなのが現実になるなんて……私、やだよ。


 ※


 部屋から出る事もせず、今日は習った事の復習だけで終わった。

 今は夜、いつもなら寝ている時間。だけれど、寝れない。


 眠いけど、寝れない。いや、瞼は重いから、寝れると思う。

 最近、寝不足だったし。でも、寝たくない。


 寝たら、またあの怖い夢を見るかもしれない。

 そう思うと、怖くて怖くて、たまらない。


 でも、体は睡眠を求める。

 瞼が重く、抗えない。


 お願い。もう、雅様を殺さないで――……


 ※


「――――今日も、美月は部屋から出て来ぬのか」

「そうみたい。女中が何度か声をかけているのだけれど、弱弱しい声が返ってくるだけ。襖を開けようとすると、大きな声で拒絶されるらしいわよ。どうする?」


 美月は数日、部屋から出てきていない。

 一度だけ、響が部屋に訪れ声をかけたが、それでも体調がすぐれないと言って部屋に入れなかった。


「本当に体調が優れないのであれば、医者に見せなければならない。だが、行動を起こす前に、まず容態を確認したいな」


 腕を組み、「しかし……」と、頭を悩ませる。


「俺様が出ると、気を使って本当の事を言ってくれん可能性がある」

「でも、女中でも私でも駄目なのなら、もう雅しかいないと思うわよ?」


 響の言葉に雅は目を細め、腕を組んでいる拳を強く握った。


「…………いや、ここで考えていても仕方がない。嫁が苦しんでいるのだったら、夫である俺様が動かないとな」


「守ると、決めたのだから」と雅は立ちあがり、自身の部屋を出て行った。

 雅の背中を送り、響は笑みを浮かべる。


「夫婦とは、どちらかが悩んでいる時に、どれだけ協力が出来るかどうか。夢物語のようなお話だけれど、現実問題、協力しなければ夫婦は成立しない。私と、あなた、のように――……」


 響は、顔を上げ一点をみる。

 そこには、写真が壁に飾られていた。


 二人の男女。一人は、着物を見に纏っている響。もう一人は、雅によく似た男性。

 二人は微笑ましく笑みを浮かべ、写真に写っていた。


「あなた、雅は頑張っていますよ。どうか、見守っていてください」

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