第6話 内容
「あのような書き方をすれば、必ず姉は妹である貴様に縁談を持ちかけると思ったからな」
「そこまで、考えておられたのですか?」
「久光から話が出てから色々調べさせてもらった。貴様の赤い瞳の事ももちろん事前に知っていた」
っ、だから、初めて私の目を見ても驚かなかったんだ。
元々知っていて、それでも受け入れてくれたんだ。
それだけで、私はすごく嬉しい。
こんな、不吉な目を持つ私を、何も出来ない私を受け入れてくれた雅様。
私は、この感謝をどのように返せばよろしいのでしょうか。
「そして、貴様の力の発言が遅れている事も知っている」
「っ、あ、あの!」
「ん? どうした」
「どうしてそこまで知っているのに、私を受け入れてくださったのですか?」
私は、周りに不吉だと言われ隔離されていた。
力が芽生えていない私には、取り柄などない。
私を嫁ぐ利益は、鬼神家にない。
「私は、鬼神家のために何かできるわけではありません。なにも力を持たない私を受け入れれば、逆に鬼神家は不幸に見舞われてしまうかもしれません」
私の目は、血の色をしていて不吉。
そんな私を受け入れてしまった鬼神家がどのような目にさらされてしまうのか、想像もしたくない。
「俺様は、力がどれだけ強かろうと、性格が悪ければ受け付けないのだ。性格ブスに興味はない」
せ、性格、ブス……。
そ、そこまで……。
「それに、力が欲しいのなら俺様に頼れ。周りの目が怖いのなら、俺様を見ろ。俺様は、貴様を絶対に不幸になどしない。自分も、不幸にはならない。絶対にだ」
漆黒の瞳が力強く光る。
決意の炎が宿り、メラメラと漆黒の瞳の中で燃えている。
私は、どれだけ貴方に救われるのでしょうか。
どれだけ私は、貴方に感謝すればいいのでしょうか。
――――いいえ、この気持ちは返せるものではありません。
貴方の底なしの優しさに、私なんかが返せるものなど、何もない。
だからこそ、悩むのです。
私は、本当に貴方と共に居てもよろしいのでしょうか。
本当に、私が貴方に嫁いでも、いいのでしょうか
※
食事を済ませ、雅は美月を部屋へと戻させた。
少し時間を置き、響が襖を開き入ってくる。
「話したのかしら」
「あぁ、酷く驚いていた。久光はまったく話していなかったらしい」
問いかけながら響は雅の隣に座り、膝に手を置いた。
「立場的に話すのは難しいでしょうね。それに、話してしまえばどこからか情報がお二人の耳に入ってしまうかもしれない。自分はいくら嫌われても良い、早く美月さんを桔梗家から切り離したかった。――――親心というものね」
「ふん」
フイッと顔を逸らし、雅は腕を組む。
そんな雅を見て、響はニコッと笑った。
「私も同じよ、雅。貴方には幸せになってほしいの」
目を細め、雅を見る。
「今日、美月さんを見て思ったわ。あの子なら貴方を幸せにしてくれるって」
「――――それは違う」
響の言葉を、雅ははっきりと否定した。
何故否定されたのかわからず、響が顔を向けると漆黒の瞳と目が合い、同時に体が震えた。
その瞳から感じるのは、強い思いと、必ず守り抜くという決意。
美月がどのような扱いをされてきたのか調べがついている雅は、もう絶対に同じ思いをさせないと、自分に言い聞かせた。
「あいつが俺様を幸せにするのではなく、俺様が二人の幸せを手に入れるのだ。それが、俺様の責務だ」
真っすぐ向けられる漆黒の瞳に揺らぎはない。
それだけ意志が固いという事が見て取れる。
今の言葉に、響は少しだけ悲しげな表情を浮かべた。
「――雅。お願いだから、あの人みたいに無理だけはしないで。夫婦とは、片方が無理をしては成り立たないの。同じ苦労、同じ辛さを味わい、乗り越えていくものよ。それだけは胸に刻んで頂戴」
笑みを消し響が言うと、雅は数回瞬きを繰り返す。
「さすがに、まだわからないわね。でも、
響の浮かべる笑みは、雅の心に炎を灯した。
絶対に幸せにして見せる、辛い思いはさせない。
その思いにより一層、意思を固めた。
「それより。もう一つ聞いてもいいかしら?」
「なんだ?」
「貴方、そこまで言うという事は、それだけ美月さんに惚れ込んだのかしら?」
ニヤニヤしながら聞く響に、雅は一瞬目を丸くする。
そのあと、顔が林檎のように赤くなった。
「あらあら、今まで人に興味がなかった雅がねぇ~」
「し、仕方がないだろう。あいつの心が澄んでいて、見た目も可愛いのだ。あれは男性なら誰でも惚れてしまう」
顔を隠し、逸らす。
照れている雅を見て、響はクスクスと笑った。
「貴方は、人の心に敏感だからね。美月さんの綺麗で澄んでいる心に惹かれてしまうのは必然。その気持ちが美月さんの前では表せないのが残念なのだけれど……」
「俺様だって緊張しているのだ、仕方がないだろう」
「はいはい。勘違いされないように気を付けなさいね」
「? 勘違い? どういうことだ?」
雅が首を傾げ聞くと、響は立ち上がり着物を整えながら答えた。
「今の雅の態度を美月さんは怖がっているわよ。表情があの人みたいに動かないのだから、せめて言葉だけでも好きと言う気持ちを伝えてあげなさい。あと、名前を呼んであげるの。”貴様”だなんて、怖いわよ」
びしっと、指を差され、雅は困惑する。
「な、名前?」と、弱弱しく呟いた。
「そうよ。それは必須条件、頑張りなさい」
それだけ言い残すと、響は部屋を後にした。
残された雅は、ぽかんと瞬きを繰り返し、ムッとふてくされた。
「――――な、名前くらい、簡単に呼べる」
「ふん」と襖から顔を背け、仕事に手を付けた。
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