異世界キャバクラ編
第25話 召喚士、異世界キャバクラに行く(前編)
異世界9日め。連日満席の“寿司つじむら”だったが、この日は王族が訪れるというので貸し切りとなった。この店を開くにあたって国王から全額出資を受けているため多少は言うことを聞いてやらねばならない。恐魚ダンクルオステウスの解体ショーは大好評で、王侯貴族たちからは屋敷のパーティーに出張料理を頼みたいなどの話も出てきている。
国王「いやぁ〜召喚士殿、大成功なされたな! わしはそなたのことを見くびっておったぞ、ましゃかここまでの男とは」
ミキオ「どうも」
カウンターでおれの隣に座った国王はすっかり酔っ払っており、既にロレツも怪しい。
国王「召喚士殿、飲んどるか? 若いもんはじゃんじゃん飲まんと!」
出た、アルハラ。酒席ではなぜかこういう「飲める/飲めない」の二元的な価値観でマウントしてくるオヤジが多くてうんざりする。単なる体質の問題なのに飲めないのは無粋であり治さなければならないという話になっているのは何故だ。おまけに会話の内容と言えば野球や競馬などの非生産的な話題ばかり。酩酊してるから話の脈絡もなく、聞いてて1ミリも楽しくない。だからおれは酒席が嫌いなのだ。
国王「スシは美味かったが、宴もたけなわであるし、そろそろ、のぅ!侍従長!」
侍従長「は」
国王「2軒めだ、2軒め! 召喚士殿も来られよ、わしの奢りだ!」
ミキオ「…どこへ行くんだ?」
侍従長「キャバクラにございます。陛下行きつけの店がありまして」
まさかと思ったが確かにキャバクラと聞こえた。神与特性の自動翻訳機能がキャバクラと正確に翻訳している。つまり、この異世界ガターニアには日本のキャバクラに極めて似た文化があるということになる。
国王「さ! さ! 板さんも来られよ! 後のことは若い者に任せて!」
シンノス「え、オイラもっスか」
板場のシンノスまで引っ張り出して連れて行く。王はすっかり出来上がっており足元もふらついている。こうなるとその辺のオヤジと変わらん。キャバクラか…行きたくないが仕方ないか。国王に何かあったらいけないし、近衛兵たちも酔っ払ってお役目果たせそうにないしな。そんなことを考えながらおれたちは王都の繁華街エキナムにある“ノマッセ”という趣味の悪い店に移動した。
ママ「いらっしゃいませー♡」
ドアを開けるとママが出迎えてくれた。40前後の人間の女性だ。
国王「ママ、会いたかったぞい」
ママ「お久しぶり王様。あらこちら素敵♡」
国王「召喚士殿じゃ」
ママ「え、週刊誌の人?」
ミキオ「召喚士だ」
国王「まあどっちでもええわい。ボトルまだあったであろう、出して」
おれたちは何かいい席に通された。奥には別な客がいるようだ。王などすっかり赤ら顔で王冠もマントも外してハンガーにかけている。その他の王侯貴族たちも同様だ。こうなってくると王族だか日本の中小企業のおっさんだかよくわからない。
国王「で、あれだ、召喚士殿はうちの娘とどうなのだ?」
う、こいつ酔った勢いに任せてデリケートな問題に斬り込んできたな。やり方が汚い。
ミキオ「友人として仲良くさせて頂いている」
国王「なんだの〜、召喚士殿も良き男だがちと奥手だの〜。草食系とかいう奴か? 女なんぞっちゅうものは一回○○してしまえば○○になるんだから…」
ああ、もう聞いてられん。現代の価値観とアジャストしてない。まだ価値観をアップデートしてないのかこの親父は。おれは適当に聞き流した。
国王「のう、おぬしもわかるよな? 男は惚れたら速攻で押し倒すぐらいでないとの!」
そう言いながらキャバ嬢の尻を触ろうとする国王だったが、キャバ嬢に軽くいなされている。
キャバ嬢A「王様、ダーメ♡」
あーあ、こんな小娘にいなされちゃって、威厳も何もあったもんじゃねえな。
国王「じゃ、あれだのう! 盛り上がってきたんで、王様ゲームやろう!」
いややらんでもお前が王様だろ。などと心の中でツッ込んでいたら横のはるな愛みたいなキャバ嬢が話しかけてきた。
キャバ嬢B「こちらあんまり酔ってらっしゃらないんですか? お強いんですねー」
ミキオ「酔えない体質でな」
おれは前世からなかなか酒には強かった。味が嫌いなので常飲はしなかったが。こっちに来てからは神与特性の身体強化でまったく酔わなくなった。向かいのCHARAみたいなキャバ嬢も話しかけてくる。
キャバ嬢A「お仕事は何をしてらっしゃるんですか?」
ミキオ「召喚士だ」
キャバ嬢A「え、ショーシャンクの空に?」
ミキオ「召喚士だ。絶対無いだろうこの世界にその映画」
キャバ嬢C「なんかお客さん凄いイケメンじゃないですか? わたし連絡先聞きたい!」
キャバ嬢B「わたしも聞いていいですか? 今度伝書鳩送らせてください♡」
これだ。これがおれがキャバクラが嫌いな理由のひとつ。別にモテてるわけじゃない、やつらは次に繋げたいから言ってるだけなのだ。要は金銭目当てだ。世の中、金銭絡みの色恋ほど虚しいものはない。
ミキオ「教える理由がない」
シンノス「えっへっへ、じゃあオイラの連絡先言っていい? フルマティ8番町3-6-1、“寿司つじむら”っス」
ミキオ「おい、勝手に教えるな」
その時、奥の方のテーブルでガシャンというガラスの割れる音がした。どうやらキャバ嬢が手を滑らせてグラスを割ってしまったらしい。
ヤクザA「コラッ! 何しよるんじゃボケ! わしに全部かかってしもうちょるやないけ!」
キャバ嬢D「す、すみません」
ヤクザA「謝って済むかコラ。責任者呼んでこんかい」
ヤクザC「わしらイオボアファミリーのもんじゃど、どう落とし前つけるつもりじゃ」
奥の間の男たちはやはりヤクザのようだ。オーク(猪人)やオーガ(鬼)も混じっている。そのテーブルのキャバ嬢たちはすっかり縮こまっていた。
ミキオ「あいつらは」
キャバ嬢A「この辺りをシマにしてるイオボアファミリーの人たちです。真ん中にいるのは“悪夢のブラッカ”と言われた元格闘技チャンピオンのブラッカ・ミギューさんで」
なるほど、真ん中にいるひときわデカいミノタウロス(牛人)がそれか。確かに迫力がある。
ミキオ「国王、いいのか。あんたの国でヤクザ者が暴れてるぞ」
王を見るといつの間にか寝ている。いや狸寝入りかこれは。シンノスはキャバ嬢と何か下ネタ的な話で盛り上がっていてこっちの方は無視だ。他の王侯貴族や近衛兵たちはみな一様に「お願いします」みたいな空気を出してきている。
ミキオ「仕方ないな…」
おれが赤のサモンカードを取り出すと、奥の席にいた元格闘技チャンピオンのブラッカとか言うミノタウロスが立ち上がってこっちに歩いてきた。
ブラッカ「兄さん、聞いてるぜ。召喚士なんだってな」
ミキオ「ああ」
ブラッカ「なかなかのレアキャラじゃねーか。俺は一度召喚士ってヤツと手合わせしてみたいと思ってたんだ」
この最上級召喚士とか。なんと無謀な男だ。
ミキオ「無意味な喧嘩は買いたくないんだよな」
ブラッカ「俺には意味がある。ヌルい空気の中で生きてると時々無性に暴れたくなるんだ。表に出ろ」
キャバ嬢たちの不安げな視線を一手に集めながらおれたちは店の外の路地裏に出た。
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