第21話 聖子!明菜!全世代アイドルフェス(後編)
王都フルマティにある王立武道館にて、フェスは後半戦を迎える。召喚士のおれも今回は100人を超えるアイドルを召喚せねばならない。なかなかのMP消費だがフェスを成功させるためには仕方がない。
フレンダ「さて続きまして、これも異世界の一時代を築いたアイドルだとのことです。1999年のモーニング娘。で“真夏の光線”」
ヒッシー「おお! 当時のメンバーだにゃ。みんなおぼこいにゃあ〜」
今回召喚されたのはこの曲のオリジナルメンバーである中澤・石黒・飯田・安倍・保田・ 矢口・市井。初期のシングルでありのちに重要メンバーとなる後藤真希や鞘師里保、牧野真莉愛もまだ加入していないが、セットリストの流れで泣く泣くこの曲が選ばれた。夏らしく清涼飲料水のような爽快感、バラードが続きやや重くなった空気を一気に変える目論見である。みんな若い! 中澤さんですら若い(笑)。
クロロン「でも意外だね、ミキオ結構アイドル詳しかったんだ」
舞台袖でモー娘。に見入っているおれに空中の妖精がいじってきたが、別におれは誰推しとか誰それが可愛いとかそういうレベルで見ていない。単純に文化として良きものだと理解しているだけだ。
その後は…
80年代
酒井法子/1億のスマイル—PLEASE YOUR SMILE—
CoCo/EQUALロマンス
藤谷美紀/転校生
90年代
南青山少女歌劇団/SWEET&TOUGHNESS
東京パフォーマンスドール(初代)/ダイヤモンドは傷つかない
広末涼子/Summer Sunset
2000年代
Perfume/アキハバLOVE
松浦亜弥/LOVE涙色
2010年代
たこやきレインボー/私、ただ恋をしている
という日本のアイドル史を飾った名曲がそれぞれ歌われた。一部の人選に「この人を入れていいのか?」という議論があるかもしれないが、後の人生にあったことはどうでもいいというのがおれとヒッシーの考えだ。アイドルは当時の舞台上での輝きこそが重要なのだ。そんなわけでフェスは大盛り上がりのままラストとなった。
ミキオ「ヒッシー、トリだぞ」
ヒッシー「ああ、これは迷いなく決めたにゃ」
フレンダ「最後の曲です。2016年より、欅坂46で“二人セゾン”」
紫色の炎を噴き上げて出現する欅坂メンバー選抜21人。センターは当然、弱冠15歳のカリスマ平手友梨奈である。歌詞の通り移ろいゆく季節と揺れる心をクラシック&モダンバレエをモチーフとした華麗なダンスが見事に表現し、メロディとシンクロしている。完璧な世界観、足すところも引くところもない完成された現代アートのような曲だ。Cメロの平手ソロダンスで圧倒された観客がみな言葉を失っている。歌詞の中の恋人は死んだのだろうか、秋元康は時々とんでもない詩人になる。客席はみな涙をにじませてているようだ。いや嗚咽している者までいる。あ! あの嗚咽してる客、トッツィー・オブラーゲのおっさんじゃないのか!? あいつなんで自分がドタキャンしたコンサート会場に自分で来てるんだ。
アンコール!アンコール! 曲は終わり幕は閉じたがアンコールの声が鳴り止まない。
ヒッシー「ミキティ、おれは感動してるよ。生きてて良かったにゃ、こんな凄いフェスは生涯もうあり得ない」
ミキオ「ああ、よくわかる。だがまだ終わってないぞ。やっぱりアンコール来た」
ヒッシー「じゃこれ召喚お願い。ちょっと反則なんだけどね〜」
ミキオ「エル・ビドォ・ シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、SKE48!」
フレンダ「アンコールありがとうございます。我々スタッフもアンコールに相応しいアイドルは誰かと熟考いたしましたが、やはりここしかないという結論に至りました。2012年の異世界よりお越し頂きました、SKE48で“パレオはエメラルド”」
幕が開き、拍手と共にステージ上に登場したのはSKE48。それも総勢62名という、2012年当時のフルメンバーに近い人数。ヒッシーが“ちょっと反則”と言ったのは前半登場のAKBにも参加していた松井珠理奈がこちらにもセンターとして登壇しているからである。
ゆったりとした前奏から突如変調しアップテンポへ。62人が一糸乱れぬラインダンスを行い、バレエ経験のある須田亜香里がクラシックバレエの回転技グランフェッテで、体操経験のある藤本美月が見事なバック転&バック宙で彩りを添える。つまりこれは2012年NHK紅白歌合戦の再現である。既にアイドルを超えて曲芸の域に達している。誰だ、日本のアイドルはお遊戯だなんて言った奴は。このパフォーマンスを観てもそう言えるのか。曲調も華やかにしてポップ、アイドルソングの王道、ひとつの完成形といった趣き。まさに全世代アイドルフェスのアンコールに相応しい。のちにAVの世界で長きに渡りトップの座をほしいままにした三上悠亜が別名義で後方でひっそりと踊っているのも要チェックだ。
ヒッシー「決めたよ、ミキティ。おれこのままここに住む! こっちで暮らしてまた来年フェスやろう! 来年は地下とかインディーズアイドル限定がいいニャ」
ミキオ「いや、そんなこと軽く決めるな」
おれたちが舞台袖で言い合ってる時、客席からひとりの男が立ち上がって拍手しながら勝手に登壇していった。誰あろう、不倫ドタキャン男のトッツィー・オブラーゲである。
トッツィー「ブラボー! ブラボー! いや素晴らしい、異世界のアイドルさんとはこうも素晴らしいものでしたか! 皆さん拍手、はくしゅーっ!!」
客席は今更なんだお前、といった感じでザワザワしている。
ミキオ「何だあいつ」
ヒッシー「もー! せっかくキレイに決まったのに、何だよアイツ!」
トッツィー「不肖わたくしトッツィー・オブラーゲ、今回諸事情により休演するつもりでしたが、このような若い娘さんたちが頑張っているのに私もこのままではいかんのではないかと、こう思いましてですな!」
なにが諸事情だ、自分の不倫がパパラッチにバレて逃げ回っていたクセに。当時15歳の松井珠理奈も明らかに誰コイツ、みたいなジト目でトッツィーを睨んでいる。
トッツィー「ということで、やはり最後はわたくしの“夢酔い酒場”で締めなければいかんのではないかと、こう思うのであります! いかがでしょう?」
シーン、と静まり返る客席。全世代アイドルの奇跡の競演でこんなに盛り上がったのにいまさらこんな不倫おやじの歌なんか聴きたいわけがない。トッツィーがリアクションの悪さに困惑していると「引っ込めー!」とか「消えろジジイ!」などの罵声が飛び交い、空き缶やミカンの皮がステージに投げられるようになってきた。おれは閉幕の指示を出し、おっさんは歌わないまま今回はおひらきとなった。最後に予想外のトラブルはあったがおおむね大成功と言えるだろう。帰り際にちょっと見たらガチ勢のおばさまたちにトッツィーがつるし上げられていたが、ま、自業自得だ。
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