第7話 異世界にビートルズがやってくる!ヤァ!ヤァ!ヤァ!

 王都フルマティの居酒屋コシヒッカ亭を出たおれはギルドに紹介して貰った宿屋に向かって歩いていた。ザザがまだついてくるが、何だこいつは。宿屋への道など妖精にナビさせるからわかるのに。


ザザ「いやぁ、すげぇなミキオ! お前は最高の召喚士だ!」


 背中をばしばし叩かれる。わかったわかった、こいつ酒癖悪いな。結局おれが奢ってるし。というかもしかしておれがこいつを送ってやらねばならんのか? 一応女だし、こんな千鳥足でちゃんと帰れるもんだろうか。送ってやらねばおれの責任問題になりそうな気がする…などと考えているとコシヒッカ亭の方から走ってくる者がいる。店の店員か?


シンノス「だ、旦那、待ってくれ、あんたに頼みがあるんだ」


 おれと同年代だろうか、金髪で青い瞳、とは言えどこか東洋人風の親しみやすい顔つきのその男は唐突に自己紹介し始めた。


シンノス「おれはコシヒッカ亭の大将の次男坊、シンノス・コシヒッカ。頼む、さっきスシを作ってくれた職人さんを紹介してくれ。おれはあの味に感動した、弟子になりてえ」


 なるほど、そう言えばさっきこいつはやたらに感動して食いまくってた気がする。おかげでおれの食うぶんが少し減ったんだ。


シンノス「な、頼むよ、旦那は召喚士なんだろ? またあの変な頭の職人さん召喚してくれよ」


クロロン「ミキオ、同じ人物の召喚は1日1回しかできないよ」


 おれがまだ何も言ってないうちから横で妖精のクロロンが釘を差してくる。


ミキオ「え、そうなのか、初めて聞いたぞ」


クロロン「だってそんな1日何回も読んだら普通に失礼でしょ」


 そういう問題なのかよ。じゃ厳密なルールではないな、と返してやりたかったがひと前では妖精と会話しないのが鉄則だ。“そういう人”と思われてしまう。


ミキオ「お前、シンノスだっけ。腕は確かなんだろうな」


シンノス「あ、ああ。店では板場に立っていた」


ミキオ「わかった。華屋与兵衛に頼んでお前に寿司の稽古をつけてもらおう」


シンノス「本当かい!?」


ミキオ「ただし1日1回、5分間だけの修行を7日間だ。それでモノにならなかったらもう知らないぞ」


シンノス「わ、わかったよ。それでなんとかする」


ミキオ「万事うまくいったら寿司の店を出せ。資金はおれが工面する。おれが通うから毎日うまい寿司を食わせろ」


シンノス「おお!なんかもう色々決まっちまったな!コシヒッカ亭は兄貴が継ぐから問題ないんだ、かたじけねぇ!」


ミキオ「じゃ、この近くにニシヴォリー旅館って宿屋があるから店が終わったら毎日訪ねて来い。召還士のミキオと言えばわかる」


シンノス「わかった!これから頼むよ、召喚士の旦那!」


 あっさりと決まった。ま、これで異世界でも寿司が食えるようになるんならありがたい。米とか醤油とかこの世界にあるんだろうか…いや、それよりこの酔っぱらいエルフをどうしたもんか…風呂にも入りたいし…ああ面倒くさい。




 結局その日は宿屋にもう一つ部屋を借りてザザを泊まらせることにした。既にろれつの回っていないこいつから自宅までの道を聞き出すことは不可能と判断したからだ。といって女を部屋に連れ込むなんてこともまっぴら御免。おれは恋愛なんて無駄なものにエネルギーを使いたくないのだ。幸いにこの宿屋には大浴場があったので快適に過ごすことができた。いい旅館だ。



 翌朝、おれは遅めの朝食をとり外出した。ザザは起きてちゃんとギルドに出社したらしい。あいつ、見た目はギャルだが意外ときちんとしている。おれはひと気の無い海岸まで移動した。自分の召喚能力や、例の神与特性てやつを確認しておこうと思ったからだ。


ミキオ「まずは魔法召喚…おい妖精、召喚できるのは人物ひとりにつき1日1回5分間だけが原則だったな」


クロロン「そう!それ以上はマナーに反するからね。それと架空の人物やミキオより格上の神仏は召喚できない。悪魔とか邪神の類もやめといた方がいい」


ミキオ「なんでだ」


クロロン「あとあと面倒だからだよ。わかるでしょ」


 なるほど、確かに前世でじいちゃんもヤクザとは縁を作るなよと言っていた。その時はいいがあとあと面倒なことになる、と。


ミキオ「呼び出す人物は任意の年齢で呼べるのか」


クロロン「それは召喚した時のミキオのイメージが反映されるんだよ。特にイメージしてない場合はその人物の全盛期で召喚されるよ」


 なんの全盛期だかよくわからないが、まあ能力や知能が万全の状態の時に呼べるということか、よくできている。


ミキオ「大体わかった。ちょっと試してみよう…エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、えーと戦国時代の一般的な農夫のおっさん!」


クロロン「えー!?」


 サモンカードの魔法陣が迷っているのか、紫色の炎がぐるぐる回って吹き上がらない。


クロロン「ほら!魔法陣も誰呼んでいいのか困ってるじゃん!」


ミキオ「うーむ…」


 やや間があってやっと炎の中から鍬をもった無精髭のおっさんが出てきた。


農夫「ヒエッ!? こ、ここは一体どこだべか…」


ミキオ「なるほど、結構アバウトなオーダーでも通ることは通るんだな」


クロロン「こんな変な召喚するのミキオしかいないよ」


 妖精にツッ込まれたがこれは実験だからいいのだ。


ミキオ「すまないな、もう帰ってくれていいぞ」


クロロン「召喚は5分間経たないと戻らないよ」


 そうなのか。これも今知った。農夫のおっさんも困惑してるが5分間待ってもらうしかない。畑仕事の最中だろうに申し訳ないな。


ミキオ「あとこれも試してみたい。エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、ザ・ビートルズ」


 魔法陣の炎が勢いよく噴き上がり、炎の中からジョン、ポール、ジョージ、リンゴの4人が出てきた。マッシュルームカットで揃いのスーツを着ていた頃のビジュアルだ。シングル曲で言うとシー・ラブズ・ユーの頃だろうか。突然の出現に農夫のおっさんが腰を抜かして驚いている。


ミキオ「なるほど、複数人でも呼べるんだな」


クロロン「その程度の確認のためにこんな歴史的アーティストグループを呼ぶなよ!」


 妖精やたらツッ込んでくるが基本無視だ。ビートルズの4人は急に海岸に呼び出されて驚いているがいちばん若いジョージ・ハリスンなどは海だーなどと言ってはしゃいでいる。


ミキオ「せっかくだから何か歌ってもらおうかな、湘南乃風とか」


クロロン「だから!歴史的アーティストグループを路上のギター弾きみたいに扱うんじゃないよ!」


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