【短編】タケノコってクソだよなw から始まる物語

☆えなもん☆

タケノコってクソだよな

 とある高校の放課後。

 意味も無く、生徒たちは教室に居残り、各々が学友たちと会話に華を咲かせている。

 その中で唐突に呟かれる一言――


「タケノコってクソだよな」


 ――殺気。

 教室中のあらゆる方向から声の主、教室中央の席で友達と会話していた木村へと視線が注がれた。

「え、俺なんか言っちゃいました?」

 などと笑う木村。しかし最初から何事も無かったかのような、先ほどと同じ笑い声が絶えない教室の風景がそこにはあった。


   ○○○

 

 帰り道。木村はいつも通り石畳の道を歩いて家へ向かう。 

 何も変わらないはずの下校路――そのはずだった。

「お命頂戴する!」

 頭上から声がした刹那、鋭い剣戟が鼻先をかすめる。

「な、なんだ!?」

 咄嗟のことに身を引くと、段差につまずき倒れる。結果として声の主からによる二撃目を躱すことになった。

「悪運の強い男。けれど、動きは見切った。次の一撃で貴方は致命傷を負うだろう」

 声の主は細い剣先を木村に向けて構える。 

 改めてその姿をよく見た木村。身体のラインが見える黒い和装。口元までも隠したその姿はまさしく女忍者――クノイチ。

 しかし、それよりも気に掛けるべき事実があった。

「その声、それに髪型とかも……おまえもしかして篠崎か?」

 木村が視界から得た情報から行きつく一人の人物――体格や髪型、面影のある目つきから行きついたのは篠崎というクラスメイトの女子。

「ふっ、悪くない眼をしている。冥途の土産だ、答え合わせをしてやろう」

 クノイチ――篠崎は口元を覆っていた布を取ると、素顔を晒す。

「おまえもタケノコ派ならば、良きタケノコ忍、略してタケニンになれただろう」

「篠崎ってそんなキャラだったんだ。普段丸眼鏡かけて放課後に本読んでるキャラだと思ってたんだけど」

「それは世を忍ぶ仮の姿。しかしキノコ派の貴方にはこれ以上は関係のないこと」

 そう言うと篠崎は瞳に殺気を宿らせ、剣を再び構える。

「貴方が死ねば、これからも何も変わらぬ日常が続くだけだ!」

 剣先が風を切り、木村の眉間へ向かう。

 咄嗟に目を閉じる木村。しかし予感された眉間への痛みは訪れず、代わりに顔の前で響いたのは鉄と鉄が激しくぶつかる音。

 木村は目を開けてみる。すると目の前には誰かの背中があり、その奥で剣戟を弾かれた衝撃のせいかズザザ――と地面を滑る篠崎の姿があった。

 目の前の人物は振り返り、その顔を見せる。

「同志木村よ。義を以って助太刀致す」

「お、おまえはもしかして――」

「なんてな。助けに来たぜ」

「吉岡!?」

 その人物は吉岡。クラスメイトであり、よく宿題を忘れて頼ってくる木村の友達。

「おまえまでなんだその恰好」

 木村が疑問を抱く通り、吉岡の恰好は肌を隠す黒い和装――まさしく時代劇に出てくる忍者そのもの。

「隠してたけど、俺は歴史ある忍の一族――キノコ忍の出だ」

 そう言いながら、背中から短刀を抜き、切っ先を篠崎に向ける。

「そして篠崎――あいつは対立している里の人間。まさかこんなところで相対する事になるとはな」

「それはこちらの台詞だ。数千年に渡る因縁、いまこそ決着を付けようぞ!」

「ってわけで木村。ここは任せろ! 次会った時は、キノコでもつまみながら宿題写させてくれ――走れ!!」

 その言葉に呼応して、木村は走り抜ける。

 直後、背後から鋭い剣戟の音が響き渡る。

「よ、よしおかあああああああああああ――――っっ!!!」


   ○○○


 少し走ったころ。

「はぁ、はぁ……危ないところだった」

 剣戟の音が聞こえないところまで走ったころ、ようやく木村は足を緩めた。

 息を整え、前を向く。すると目の前には一人の人物が腕を組み、堂々と立っていた。

「ボディビル部の……有村か?」

 答えが無くても木村にはわかっていた。その顔……そしてその筋肉を見間違えるはずがない。 

 常人と比べて空間の占有率が高いその圧倒的バルク。腕も足も、肉体の全てが太く、厚いクラスメイトのその男。

「きいいいいむううううらあああああああ!!!!」

 そして何より、心が熱い男――有村で間違いない。

「おまえの発言は許すまじものだ! タケノコにより作られたこの圧倒的バルクにより、おまえを圧死させようぞ!!!!」

「うわぁ、声でっか」

 耳鳴りに耐える木村へと、有村は掴みかかろうとする。

 迫りくる筋肉。捕まる、それイコール死であると確信できる目の前の光景。

「どすこい!」

 しかし、その死すら予感させる突進は木村にたどり着く前に止められた。

「お、おまえは!?」

 振り返るまでもない、その巨大な背中には見覚えがあった。

「木村殿。ここは任せるでごっつぁん!」

 有村とはまた別の理由で空間の占有率が高いクラスメイトの男子。

「ただ太ってるだけの体系を相撲キャラでごまかそうとしてる早川!!」

「ち、違うでごわすよ!」

 早川は振り返り、その丸い頬っぺたごと口角を持ち上げた。

「この身体の体脂肪率は、そのままキノコ率を表すござる。キノコ率の高さ、それがそのまま力になるというのは、木村殿も知っているでちゃんこ?」

「いや知らんけど……とりあえずここは任せていいんだな!」

「どすこい!(肯定」

 振り返る直後、白い肉と赤い肉がぶつかり合う音が響き始めた。

「は、はやかわああああああああ――っっ!!!」



   ○○○


 しばらく走り、一息つくために公園へと辿り着いた木村。

「おまえら。なんでこんなところに?」

 そこにはクラスメイトたちの姿があった。

 先ほど別れたはずの篠崎、吉岡、有村、早川の姿までもある。

 しかし全員がまとまっているわけではない。篠崎と有村を含む所謂タケノコグループと、木村を助けてくれた吉岡と早川を含む所謂キノコグループがまとまり、グループ同士で睨み合っている。

「木村、わかってるだろう。これはキノコとタケノコの戦争だ」

 キノコ派の連中は木村へと――最後に現れたキノコ派の仲間へと微笑みかける。

「おまえも戦うんだ。誇りをかけ、俺たちの勝ちを高らかに叫ぶために!」

 吉岡から木村の手へとライフルが渡される。

「ライフル……」

「そうだ。敵に向けて、容赦なく引き金を引くだけだ!」

 それだけ言うと、吉岡は叫ぶ。

「この戦いはもう止まらない。俺たちキノコ派の力を見せてやる!」

「笑止千万! タケノコを食わぬおまえらに負けるかあああっっ!!」


「「うおおおおおおおおお!!!」」

 ついに始まってしまったキノコ派とタケノコ派による戦争。各々が自らの力をふんだんに使い、戦いに勤しむ。

 木村は後方で冷静にライフルをに向け、引き金に指をかける。

「あばよ」 

 パァン――っと、乾いた銃声が響く。

 打たれた男は膝を付いた。

 膝をついたのは、キノコ派であり、先ほど木村を助けた――吉岡。

「なんで……だ、木村。同じキノコ派の、俺を……」

 痛みに耐えながら振り返ると、そこには不適に笑う木村の姿が見えた。

「武器の調達ご苦労だったな。まぁ、本当は斧が一番いいんだけどな」

「斧、だと……おまえ、まさか……!?」

 木村は中指を立て、言い放つ。

「俺はキリカブ派だああああああああ!!!!」


 そして血で血を洗う三大勢力による戦いは激化していく。

 その結果を知るものは……いない。


 



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