ロリ社長に囲まれたい!

@soranisiyuito

第1話 プロローグ

 多くの優秀な若手が起業し、成長していく現代社会。ヤングリッチと呼ばれる人々は、年々増加傾向にある。


 働き方改革や、GDP拡大に向けての政府の取り組みによって、世界はより一層企業しやすい環境へと変わっていった。


 その中に、逸脱した実績を残す少女たちが多くいた。


 今となっては、大半の企業はその少女たちによって動いているのだ。


 彼女らのほとんどが小学生。子供ゆえの発想力や創造力で数々の商品や作品を作り上げてきた。


 その種類は幅広く、玩具会社、ぬいぐるみメーカー、デザイナー、音楽家、漫画家、小説家、イラストレーター、インフルエンサー等々、様々な分野において活躍している。




「そこでだ。俺は考えたわけ」


 教室の隣の席で、机に片肘を付きながら話を聞いている友達の裕也ゆうやに話す。


「どうせくだらないことでも考えたんだろ? ロリのこととなるとお前の頭はおかしくなるからな」


「そう! 俺はそんなロリたちとどうすれば仲良くなれるか考えていたのだ!」


「うわぁ·····」


 裕也があからさまに呆れたような顔をする。俺自身も気持ち悪い発言していることは理解わかっているが、そんなことは一切気にしない。だってそれが俺の生き方だから。


「まずは彼女たちと同じ立場になる必要がある。要するに起業して有名になる必要があるってことだ」


「そんな夢みたいなこと、どうやってやるんだよ」


 裕也が呆れたような顔をして言う。


「よくぞ聞いてくれた! 会社を大きくするには他社との差別化が必要なんだ。俺たち中学生と小学生の差は何だと思う?」


「差·····? 身長とか?」


「のんのん。答えは知識だ。俺たちは彼女たちに対して知識で勝っていくしかない」


「知識って言ってもそれをどうやって起業に繋げるんだよ」


 俺はニヤリと笑って、そしてドヤ顔でこう言う。


「俺が使うのは、勉強の知識じゃない。プログラミングだ。中学生になってから情報の授業が始まるわけだが、小学生はまだそれに手を付けてはいない。そして俺は幼い頃からPCをずっと触り続けてきた」


「確かにお前はプログラミングに関しては最強だよな·····」


「そう! つまり、俺はこれからプログラミングを活かし、女子小学生向けのゲームを作ることに決めたんだ!」


 カッコつけたような風で自信満々に宣言する。完璧に決まった。


「女子小学生向けのゲーム!?」


 裕也がビックリしてオウム返しする。ゲームは大衆向けに作るのが普通であり、限定的な人向けで作ることは少ないのだ。


「そして、俺は色々考察した。彼女たちはどんなゲームを求めているのか、と」


「うーん。着せ替えとか?」


「甘いな、裕也。彼女たちはお金持ちなんだぞ? 着せ替えなど、本物を取り寄せて自分でできてしまうだろう?」


「た、確かに·····。じゃあ、何だってんだ?」


「つまり、彼女たちに必要なのは非現実的なもの。例えば、女子なら誰もが一度は望んだことのある、プ〇キュアのような戦闘系が実は意外と当てはまっているんだ」


「戦闘系·····!」


 裕也はそう言って、急に椅子から立ち上がる。意表を突かれたような顔だ。


「そう。そして彼女たちは背伸びをしたい時期に違いない。登場人物は中学生や高校生が妥当だと考えられる」


「お前がそこまで考えていたとは思わなかった·····」


 力が抜けたように、裕也は椅子へと戻る。


「どうだ? この話、お前も乗らないか?」


 俺は手を差し出す。

 今が一番大切な瞬間だ。この計画は、裕也がいて成り立つ。


「俺にこの話をしたってことは、やっぱりそういうことか·····」


「ああ。イラストコンテストでいくつもの賞を取っている裕也にしか頼めないんだ」


 ゲーム作りにおいてイラストが必要なものは、キャラデザや風景、広告などたくさんある。


 裕也のその抜群なセンスで、誰もが目を惹かれる、魅力的なキャラを描いて欲しい、と俺は思っている。


「ったく、仕方ねぇな。お前には貸しがあるから手伝ってやるよ。それに、俺もお金持ちになりたいからな」


 手を取り合って固く握りしめる。交渉設立だ。


「よっしゃ! 裕也がいてくれたら、めちゃくちゃ心強いよ! 早速帰ったら取りかかろう!」


 ここでもし協力してくれなかったら、イラストレーターに依頼をしなければならず、その分の余分な資金調達が必要になるところだった。

 







◇ ◆ ◇


 こうして、俺たちはたったの二人でゲーム開発に挑むことになったのだが、声優を雇えず、また音楽も作ることができずに、ゲームは中途半端なままに完成を迎えることになってしまった。


 ソーシャルゲームのようなものを目指してはいたが、流石に二人だけではそう上手くいくはずもなく、最終的にノベルゲームという形で幕を閉じた。


 もちろん、ノベルゲームというゲームスタイルは素晴らしいものなのだが、俺たちの作ったこれは、最悪最低の出来であった。


「もっと上手くできるはずだったのに、コストを気にしすぎたのが問題だったかなあ」


 裕也は肩を落とす。自分が頑張って描いた子たちが認められないのは悔しいだろう。


「そりゃそうだな。そもそも、こんなので売れたら他のゲーム会社に申し訳なくなってくるレベルで·····」


 結局、俺たちはゲーム会社を設立したわけではなく、単なる個人的な趣味の範疇でゲームアプリを制作しただけになった。


 こんな予算皆無のゲームが、他会社と横に並べるくらいに伸びたら、それはもう大成功どころの話ではない。


 実際、世の中には数多くのクソゲーがあり、そしてそのクソゲーを愛する人も中にはいるのだが、それでも流石にこれは·····。


 とにかく、今回の作戦は圧倒的に人手が足りず、失敗に終わった。それ以下でもそれ以上でもない。失敗した。ただ、それだけのことだ。



 これは、それからしばらくの時を経て、俺たちは高校一年生となり、突発的に作ったゲームのことを忘れようとしていた、そんな時期の話だ。

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