善意の証言

 あるアパートの一室で一人暮らしの女子大生

が殺害されていた。発見者は隣室に住む中年男性で、被害者宅から逃げ去る男の姿を見たらしい。


「それでは目撃したときの事をできるだけ詳しく教えてください」

「は、はい!えっと、あの……」


 担当刑事達が事件当日の事を尋ねると、その隣人は分厚いノートを取り出し、オドオドと話始めた。だが、彼の話はどこか要領を得ない。


「あの、そのノートに事件当時のことがメモしてあるのですか?」


 しびれを切らした刑事の一人が尋ねる。彼の問にその男は答えた。


「あ、はい!ここに彼女のことは書いてあります!」

「……拝見しても?」

「勿論です!彼女を殺した犯人……絶対に捕まえてくださいね」


 不審に思った刑事がノートを確認すると、そこには殺された女子大生の今までの行動が分単位でビッシリと書かれていたのだ。おまけに表紙には『Vol.12』の表記まである。


「……先輩。これってストーカーでは?」

「いや。被害届はでていないし、この内容が全て本当か確かめる術はない」


 驚くべきは目の前の男。そこに悪意など微塵もなく、純粋に被害者の為に証言をしているのだ。

 結果からして、彼の証言が決め手となり犯人は捕まった。

 警察からは感謝状が授与され、事情を知らぬ被害者の両親も泣いて頭を下げた。そんなニュースを見た世間も、その善意の証言者に惜しみ無い賛辞を送った。……ノートを見た刑事達を除いて。

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