もしも勇者がポンコツだったら、ため息の一つはつきたくなるさ!
桔梗 浬
バカにも程ってものがある!
「はぁ……。何故この私が、こんなポンコツ勇者と旅をしなければならないのだ」
そう溜息を吐くのは伝説の生物『一角獣』。額の中央に立派な角を持ち、白く美しい毛並みを携え優雅に凛とした姿を見せつける。
「あの〜声漏れてますけど?」
「聞こえるように言ったのだ。少しはまともに戦い、鍛えたらどうだ」
「いやー、他の人が魔王を倒してくれるみたいだし、それなら別にいいっしょ」
そう言い隣を歩くのは、勇者マサヒコだ。本人の勇者としての自覚はゼロ。ダメダメのポンコツなのだ。無駄に持ち歩く武器と、ピチピチの鎧からはみ出すお腹が歩くたびに揺れている。それを見る度に一角獣は大きなため息をつくのだ。
「勇者ガチャに外れたな」
この時代、魔王の力が強大になると女神は勇者を選抜し、相方として伝説の一角獣を遣わすのが常となっていた。実のところ、勇者は1名ではない。ある程度のスペアー勇者を女神も考えているのだ。そしてどの勇者とペアリングされるかは、一角獣自身もわからない。
「ま〜そう言わず、美味しいモノを食べて村のみんなが幸せであればいいんじゃねーの」
「マサヒコ、お前は世界を見たいと思わないのか? 世界の民を救いたいとは思わないのか?」
「うーん。ここがオイラの世界だからな。別に〜」
「そもそも、お前に課せられた使命を果たそうとは思わないのか?」
「押し付けられた使命なんて、いらないっしょ」
「はぁ……ないな」
一角獣が三度ため息を吐くと、魔王の手下に拉致されそうになっている村人が目に飛び込んできた。「マサヒコ!」期待を込めた目で隣を見ると、近くに一角獣7号とその連れの勇者が見て取れた。その勇者は輝くばかりのオーラーがあり『ザ・勇者』の品格を漂わせていた。
敵のレベルを見ると、明らかにマサヒコには勝てそうにもない。ここは悔しいが『ザ・勇者』ご一行様に任せるとしよう。
「あそこにもう一組の勇者がいる。我々は迂回しよう」
すると、マサヒコが剣を抜き飛び出していくのが見えた。
「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「お、おい。マサヒコ!」
ドスドスドスと足音で既に敵に気づかれている。慌てた一角獣は、7号に助けを求めた。マサヒコでは太刀打ちできないとわかっていたからだ。
しかし……。7号の勇者ご一行様は気づいていないとでも言わんばかりに敵に背中を見せ、来た道を戻って行く。「ちょ、ちょっと待て!」一角獣は焦った。
『7号、手を貸してくれ。あいつには荷が重い。死んでしまう』
『僕たちには関係のないことだよ。あれは雑魚すぎるしレベル上げにもならないからね。任せたよ』
「くそっ、マサヒコ……バカにも程がある!」
一角獣は勢い良く駆け出した。己の角を武器にマサヒコに加勢する。
「私は女神に遣わされた一角獣。我が勇者を死なせはしない!」
「ユニ……」
* * *
戦いは壮絶なものだった。辛うじて勝利した二人は村人をなんとか無事助け出すことに成功したのだった。ほっと胸を撫で下ろす一角獣。
「何故、敵に突っ込んだ。おかげで危うく角を失くすところだった」
「手伝ってくれてありがとう。死にかけたど、助かったよ」
「答えになってないな」
「いや、困っている人がいるなら助けるのが勇者っしょ」
その言葉で、女神の教えが一角獣の脳裏に再現される。
『志あるものこそ、真の勇者となろう』
「はぁ……」
「何だよ、不満か?」
「いや、少しお前のことを見直さなければならないな」
「まじか! いいね!」
月夜に丸みを帯びた影と、美しいフォルムの一角獣の影が並ぶ。世の中はまだまだ捨てたものじゃないらしい。
「もう一つ聞こう。お前はなぜ私に乗らないのだ? 移動が早くなるとは思わないのか?」
「だって、オイラ重たいからさ。ユニが嫌がるかと思って」
「ま、それもそうだな。ってか、『ユニ』と呼ぶな。馴れ馴れしい」
「えーでもオイラたち良い仲だろ?」
「……それも違う」
こうして二人の心の距離が少し縮まり、いつしか魔王を倒す日が来るのかもしれない。
END
もしも勇者がポンコツだったら、ため息の一つはつきたくなるさ! 桔梗 浬 @hareruya0126
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