第4話 首都へようこそ
甲板の建物の階段を上がって行き、展望台。
「おおっ!」
マサヒデが声を上げた。
船の上から眺める海はまさに絶景。
「いかがです」
「いや、凄いの一言ですね」
遠くに流れる雲。水平線が見え、カモメが飛び、日の光を反射して輝く波。
「この景色も、ぼーっと見ているだけではただの水。ですが、よく見ていれば同じ顔はなく、常に動いています。それが海です」
マサヒデが空を見上げ、
「雲と同じですね。ずっと動いていて、同じ形はない」
「その通り。トミヤス様は船乗りの才がありますね」
「そうですか?」
サムも空を見上げ、
「ええ。船乗りには空を見る才も必要です。雲、風、全てが船に関わってきます」
「大変ですね・・・」
「ですが、それが面白いのですよ」
サムが展望台の向こうの階段に歩いて行き、マサヒデに手を振る。
マサヒデが近付いて行くと、階段の下を指差し、
「あそこですな。プールです」
「プール・・・」
大きな風呂の周りで、クレールとイザベルがはしゃいでいる。
「あれも温泉ですか」
「ははは! あれはただの水! 水泳を楽しんだり、日光浴を楽しむ所です」
「水泳ですか? 周りは海ではありませんか」
「ははははは! 船が動いている時に、海に飛び込んだら戻れませんよ!」
「あ、そうか。それで水泳する場所があるのか!」
真面目な顔で頷くマサヒデを見て、サムが腹を抱えて笑う。
「ははは! さあ、皆様の所へ参りましょう!」
2人が階段を下りて行くと、クレールが駆け寄って来て、
「マサヒデ様! プールですよ!」
「ええ。上から見ました。凄いですよね」
「でしょう!?」
「うん、ここで泳法の稽古まで出来ます」
「・・・」
呆れるクレールを無視してプールサイドに歩いて行き、腕を組んで、
「ううむ! 良い深さですね。これなら溺れてもすぐ助けられる。アルマダさん」
「は? はい、何か」
「ここで甲冑泳法の稽古など良いですね」
「ええ、まあ、そうかもしれませんが」
「イザベルさん」
「は!」
「甲冑着て、どのくらい泳げます?」
イザベルが申し訳無さそうに下を向き、
「は・・・実は、泳ぎは苦手でして・・・50間(90m)が良い所です」
「いや、甲冑で50間なら十分です」
「ありがとうございます!」
ぴしりと礼をするイザベルと、プールを見つめて頷くマサヒデを見て、他の皆が複雑な顔をしていた。
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客室フロア。
他に客が居ないフロアは静かなものだ。
勿論、最高級のスイートルームが並んでいる。
廊下を少し歩いた所でオニール船長が止まって、
「このフロアの部屋を好きにお使い下さい。何分、船の部屋ですから、お狭いかと存じますが」
「キャプテン、ありがとうございました!」
「いえいえ。皆様、後でお荷物を運ばせますので、部屋がお決まりになりましたら客室係に申し付け下さい。そこのスタッフルームに常駐しております」
「はい!」
「それではごゆっくり」
「マサヒデ様! 行きましょう! 私の部屋はあっちですよ!」
クレールがマサヒデの袖を掴んで歩き出す。
くいっとマサヒデが袖を引き、
「おっとっと。分かりましたから、手を離して下さい。皆さん、部屋に行く前に」
マサヒデがクレールの肩を掴んでぐいっと引き寄せ、
「先程、陛下に到着の報せを送っておきました。すぐに返事がくると思いますので、ええと・・・準備はしておいて下さい」
「マサヒデさん、返事はくるかもしれませんが、今日いきなりはないでしょう。陛下はお忙しいのですよ。どんなに早くても明日の夜です。多分、2、3日は平気だと思いますが」
「あ、そうですか?」
「ええ。本日は休みましょう」
そう言ってアルマダは手前のドアを開け、中を覗き、
「では私はここで結構」
と、ひらりと手を振って入ってドアを閉めてしまった。
「それでは我々もここらにしましょう」
リーがドアを開けると、他の騎士もドアを開けて入って行く。
ふーん、とシズクが背伸びして、廊下の奥を見る。
「どこも同じ部屋?」
「いえ。ダブルとツインと私の部屋がありますよ」
カオルが腕を組み、
「安全上、ラディさんはどなたかと一緒の部屋が宜しいかと。ここまで見てきましたが、潜入はさほど難しくありません。シズクさん、そこの部屋に入って鍵を掛けてもらえますか?」
「はいよ」
がちゃ。
「うわ広っ!」
「シズクさん。閉めて鍵を」
「はいはい」
ぱたん。かちり。
「鍵閉めたよー」
ドアの向こうからシズクの声。
カオルがドアの前で膝を付き、細い金具を2本突っ込んで、く、く、と動かし、くるりと回す。がちゃ、とドアを開け、
「ありゃりゃ」
「皆様、この通りです。ラディさんは1人では危険です」
「え、え」
「不在の間に水差しに毒を盛る、枕や布団、服に毒針を仕込んでおくなど、1分侵入出来れば簡単に始末出来ます。治癒師で重要度は高く、さらに人族で毒に弱い。闇討ち組が最初に狙うのは、ラディさん、間違いなくあなたです」
ラディがどきどきして、懐のミナミ新型拳銃を握る。
「私ですか」
「ですので、私かシズクさんかイザベル様とお部屋を一緒に。毒など盛られても、我々であればドアノブを握る前に看破出来ます」
「わ、分かりました」
「ご主人様」
「まだありますか?」
「はい。部屋は毎日変えましょう。同じ部屋に居着くのは危険です」
「確かに。それが良いですね」
「クレール様も専用ルームがあるとおっしゃいましたが、使わない方が良いかと。ここにいると教えているも同然です。客室は全てガラス窓で外から丸見え。鉄砲で簡単に狙撃されます。皆様も、港側の部屋に入ったらまずカーテンをお閉め下さい。後で客室係に港側の全部屋のカーテンを閉めて頂きます」
「結構です。カオルさん、後で船の中を回ってもらえますか」
「は」
クレールが不安そうな顔を上げ、
「あ、あのー・・・」
「どうしました?」
「ここ、危険ですか?」
カオルが首を振り、
「クレール様。この首都で安全なのは、城中奥の封印室と陛下のプライベートルームだけです」
「そ、そこまで警戒が必要でしょうか・・・」
マサヒデが呆れ顔で、
「クレールさん。ここ、人口だけで100万人もいるんですよ。出入りの商人、旅行者、キャラバン、船。外から出入りする者は毎日どれだけいると思うんです。宿の数、いくつあると思います。河原者とか、何人いますかね。町の中、闇討ち組だらけですよ。私達、そこを堂々と大通りを通って来たんです」
「・・・」
「今も船をよじ登ろうと誰かが鈎縄でも投げてるかもしれませんね。ま、さすがに昼間じゃ警備兵の方に見つかって不法侵入の現行犯逮捕でしょうから、明るいうちはそういうのは平気でしょうけど・・・」
マサヒデが港側の部屋のドアを開け、ちょっと豪華さに驚いたが、窓まで歩いて行き、
「クレールさん。ラディさん。こっち来て」
「はい」「は、はい」
マサヒデの横に2人が並ぶ。マサヒデは窓の向こうの港を見て、
「見て下さい。港の作業員の方の数。警備隊の方もいますね。ほら、荷馬車がまた入ってきましたよ。あの方達のどれかに偵察に来た者が混じっているかも。夜になったら、変装を解いてここに入ってくるかも。この船の備蓄を運び入れる人いますよね。その人、本物ですかね」
「・・・」「・・・」
しゃ! とマサヒデがカーテンを閉める。
窓の前から一歩横に動き、開いたドアの前のカオルの方を向き、
「カオルさんならどう攻めます」
「適当な船に潜入して船が出るまで待ちます。少し出た所で海に入り、海側から潜水して近付き、船壁を登って船内に侵入。客室係と同じ姿に変わり、全部屋を回って毒を仕掛けて行きます。このフロアに居る一般人は客室係のみなので、一般人に被害を出さずに、運が良ければ全員始末出来ます」
マサヒデが頷き、
「実に参考になりました。あえて難しい海から、見つからないように潜水して。上手い手です。私も攻めるなら港からではなく海側からと考えていました」
「恐れ入ります」
「イザベルさん。海から狙撃って出来ます?」
む、とイザベルが少し考え、
「この甲板より上は、角度を考えると外海からか、大型船舶でないと無理です。小型の船で外海に出ると揺れが大きいので、余程の達者でなければ狙えませぬ。遠くの小型船舶は無視しても良いかと。大型船舶が見えたら注意です。こちらから見えるなら、向こうも見えています。当然、狙撃出来ます」
「ここ、船が入ってきますよね」
「はい。海側もカーテンは閉めておいた方が安全です。展望台は高さもありますし、大型船舶でも近くに来なければ安全と見て良いと思います。ただし、端の手すりに近付かない方が良いかと思います」
「では、海側も注意は必要と。全室カーテンは閉めておきますか」
「それが宜しいかと。この船はレイシクランの紋章が船首に入っており、レイシクランのものと分かっております。そして、クレール様はレイシクランで、マサヒデ様の組の者と知れております。我々の寝床はこの船とすぐ分かります」
「クレールさん。ラディさん」
「はははい!」「はいっ!」
「だ、そうですよ。闇討ち組だらけの大都市で、私達の寝床はもう知られてしまいました」
マサヒデがにやりと笑ってドアを出て、窓に立つクレールとラディを見る。
「さあ、部屋を選びましょう。安全な部屋はありませんから、適当で結構ですよ。首都へようこそ、と言った所でしょうか」
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