第三章:ベータとの邂逅と予想外の展開

一:ビジネス開始



 東京の裏路地、ネオ・トヨスの一角にある小さな広場で、パイとデルタはビジネスの拠点を構えていた。パイは転売テレポートの能力を使い、あらゆる物資を調達しては売りさばくことを得意としていたが、最近ではデルタの精密な計算能力とデルタディメンションポケットの力も加わり、二人のビジネスは一段と成功していた。

「これや、これが今の売れ筋やで」

パイが笑顔を浮かべながら、最近転売したばかりの電動スクーターを指さした。

「このスクーター、反AI組織から拝借してきたんや。奴らはもう使い方を知らんけど、こっちは分かっとるんやで!」

 デルタはスクーターに目を向け、少し心配そうに尋ねた。

「でも、いくら反AI組織からでも、盗むのはよくありませんわ。それに、追跡装置が仕込まれている可能性もありますわ」

 パイは肩をすくめて答えた。

「心配無用や、デルタ。うちがちゃんと転売テレポートで追跡装置を外してるんやから。それに、支払いも全部ビットコインでやっとるしな、追跡なんかされへんで。それに、反AI組織やで? 奴らから奪うのは、正義のためやと考えてもええんちゃうか?」

 デルタは少し考え込んだが、やがてため息をついた。

「そうですわね……でも、わたくしは少しだけ心配ですわ。正しいことをしているのかどうか……」

 パイは笑顔でデルタの肩を軽く叩いた。

「まあまあ、そう考えすぎるなや。ほな、次はこのスクーターと前に手に入れたドローンの部品を、あんたのデルタディメンションポケットで何か別のもんに変えてくれへんか?」


 デルタは頷き、両手でポケットを開くような仕草をしながら、少し間を置いて堂々と宣言した。

「D・D・P……」

 一瞬の静寂が訪れたかと思うと、周囲に幻想的な光がきらめき始め、彼女の髪が軽やかに揺れる。デルタの目が真剣に輝きを増し、まるで別の存在に変わるような神秘的な雰囲気が漂う。

「デルタ・ディメンショ〜ン! ポケットですわ~!」

 光が収まるとともに、スクーターとドローンの部品がポケットの中に吸い込まれ、数秒後、ポケットから空中を滑ることができる小型のホバードローンスクーターが現れた。それは俊敏な動きが可能で、狭い路地でも自在に移動できる機能を持っていた。

 パイはその様子に目を輝かせ、口元を押さえつつ言った。

「……デルタ、ほんまに魔法少女アニメの変身バンクみたいやな。毎回見ても飽きへんで!」

 デルタは少し照れくさそうに微笑みながら、「変身バンク……? 検索……あっ……つまりお約束ですわね」と小さく呟いた。

 二人は新たな商品を手に、次の取引に向けて準備を進めた。デルタは少し照れつつも、パイの明るさと行動力に引きずられるように、一緒に進む決意を固めていた。


 デルタはホバードローンスクーターを見つめながら、ふと気になることを思い出したように問いかけた。

「そういえば、パイさん。この反AI組織のスクーター、『AAA』って書かれていましたわよね。あれって一体、どういう意味なのですか?」

 パイは少し驚いた様子でデルタを見返し、ニヤリと笑った。

「ああ、あのステッカーのことかいな? はがしたったわ! あの『AAA』という文字はアンチ・エーアイ・アライアンス、つまり『反AI同盟』の略や。スリーエーって通称で呼ばれとるんやけど、こいつらはAIを心の底から憎んでる連中やで」

 デルタはその説明にうなずきつつも、少し考え込むような表情を浮かべた。

「アンチ・エーアイ・アライアンス……反AI同盟……。確かに、彼らスリーエ―の行動には危険なものを感じますわ。ですが、わたくしのような存在が、彼らの敵意の対象になるのは少し悲しいですわね」

 パイはデルタの肩を軽く叩いて、明るく笑い飛ばした。

「まあ、デルタ、そんな気にせんときや。奴らはな、AIが人間から仕事や生活を奪うんやとか思い込んでるだけや。うちらがこうして小さなビジネスで生きとるってのも、奴らには気に入らんことやろうけど、ほんなこと言うたらこっちも食べていかれへんやんか!」

 デルタもそれに微笑みを返し、少しだけ心が軽くなったようだった。

「そうですわね。わたくしも、できる限りパイさんと共に頑張りたいと思いますわ」

 パイは彼女の言葉に満足げにうなずき、改めてホバードローンスクーターを見つめながら言った。

「ほな、これでスリーエーの連中を出し抜く準備はできたで! このホバードローンスクーター、間違いなく次の大ヒット商品や。デルタ、いっちょ二人でガツンと稼ごうや!」


 デルタはその提案に力強くうなずき、二人は取引に向けてさらに準備を進めることにした。スリーエーの目をかいくぐりながらも、彼女たちのビジネスは今、新たな成功の光を放ち始めていた。

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