終わりなき地図の旅
@Dango23
[プロローグ]
黄昏が村を包み、静寂が支配している。
家々の扉は閉ざされ、村の広場にはかつての賑わいの面影はない。
この村で生き残った者はもういないだろう。
少年の名はエルン。
彼は家族を失った。
一夜のうちに、家族はどこかへ消えた。
痕跡はなかった。
父も母も、弟も、ただ影のように消え去った。
朝が来ても、村の他の者も同じ運命をたどっていた。
奇妙なことに、村全体が何かに飲み込まれたようだった。
残されたのは荒れ果てた家と、冷たい風が吹く村の静けさだけ。
エルンは独りだった。
3日間、村を出ることもできず、ただ村を彷徨い、わずかな食料を口にして日々を過ごしていた。
心の中には、どこかで家族が戻ってくるのではないかという希望があった。
しかし、それも薄れつつあった。
夜になると、村を覆う静寂の中に、何か異様なものを感じ取るようになっていた。
その夜、村に何かが現れた。
遠くから聞こえる奇妙な笑い声と、獰猛な音。
窓の外を覗き込むと、小さな影が村の広場を走り回っているのが見えた。
ゴブリンだ。
低く甲高い声を上げながら、家々を荒らしていた。
エルンの体は恐怖で凍りついた。
彼には戦う術などなかった。
彼はすぐにクローゼットに身を隠し、息を潜めた。
小さな物音ひとつでも聞かれてしまえば、すぐに見つかるだろう。
クローゼットの中で膝を抱え、震えていると、手が何かに触れた。
父の古びたカバンだった。
埃をかぶったそのカバンの中には、父が大切にしていた手帳が入っていた。
エルンは無意識のうちにその手帳を開くと、驚愕の事実を目にする。
そこにはゴブリンの生態が詳細に記されていたのだ。
「光に弱い…視力が弱い…音に敏感…」
手帳にはゴブリンの弱点が書かれていた。
エルンは、これを活かせば、逃げられるかもしれないと考えた。
その時、家の扉が軋む音が聞こえ、ゴブリンの一匹が中に入ってきた。
エルンの喉は乾ききり、全身が震えたが、手帳に記された弱点を頼りに、近くにあったランプを手に取った。
彼は必死に息を整え、ゴブリンが近づいてくるのを待った。
心臓が高鳴る中、ランプを持ってクローゼットの扉を少しだけ開けた。
ゴブリンが家に入ってくる音がした。
足音が近づいてくる。
息を殺し、タイミングを見計らう。
すぐ目の前にゴブリンの姿が現れたその瞬間、エルンはランプを振りかざし、ゴブリンの顔に向かって油を浴びせ、火を灯した。
ランプの火が一気に広がり、ゴブリンは悲鳴を上げながら倒れた。
しかし、火はゴブリンだけでなく、家の中にも燃え広がっていった。
古びた木製の家具や壁が一瞬で炎に包まれた。
エルンはパニックに陥り、逃げ道を探しながら後ずさる。
その時、壁に飾られていた家族の肖像画が目に入った。
父、母、そして弟の微笑んでいる顔が、炎に包まれていく。
エルンは涙をこらえながら、家から飛び出した。
家全体が燃え上がり、村はますます混乱に陥っていく。
まだ村には多くのゴブリンが徘徊していた。
十数匹もの幻獣が村を荒らし回っている。
エルンにはもう、この場所に留まる理由はなかった。
彼は、父の手帳をしっかりと抱え、息を殺しながら村を後にした。
闇の中、彼は孤独に旅立った。
家族を探すために、そして手帳に記された未知の世界を自らの目で見届けるために。
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