第6話:特定班

 ネットの反応)


 ニュースなどでは発表されていないが、ネットにはどこから情報が漏れたのか、「段ボール箱詰め」のことが流出して話題になっていた。揶揄して「箱入り娘」とかも言われていてあまりにも非現実過ぎてドラマの話か、現実のニュースか分からなくなっている人が出て来ていた。


 しかも、その被害者が17歳の現役JKであることと、かなりの美人だということでネット上ではちょっとしたお祭り状態だった。つまり、顔写真が流出していたのだ。こうなると恐ろしいのが「特定班」と呼ばれる連中だ。名前や顔から家の住所や学校を割り出してしまう。


 私立桜が丘高等学校2年3組、花園芽亜里はなぞのめあり


 学校とクラスは流出した写真が高校の制服を着た写真だったことからすぐに判明した。世の中には日本中の女子の制服を見ただけでどこの学校か言い当てる「制服ソムリエ」みたいな暇人が存在するのだ。


 そこから住んでいるのが福岡市だと判明し、名前の「花園」は比較的珍しい名前で全国で1400人なのだが、福岡県内では約60人だった。世帯で言えば1世帯3人程度と考えても20世帯。福岡市以外の世帯を外すと絞られてくる。あらゆる手を使ってその20世帯を割り出して、1軒1軒探し回る刑事顔負けの特定班が家の住所特定まであと一歩というところだった。


 別ルートの特定班もいた。制服の写真から高校を特定した部隊だ。学校に通っている知り合いを見つけて「花園」という名の生徒がいないか聞いたらしい。学校内には「花園」は1人しかいないことが分かり、ネットが沸いた。


 ところが、クラスメイトも含め誰一人彼女の自宅住所を知らなかった。さすがに学校からは住所が漏れることはなかったが、高校から学区が分かった。福岡県内の公立高校には約100校あり、普通科の多くでは住んでいる場所によって受験できる高校を限定する「学区制」が導入している。福岡県内の学区は13。特定班は学区内をぐるぐる走り回るという力技に出た。普通なら闇雲に回っても家を特定することなどできない。福岡県内だけで世帯数は250万世帯程度が住んでいるのだ。1人暮らしでも10人家族でも1世帯というカウントにはなるが、福岡県の平均世帯数は約2.5人だった。つまり、250万世帯を13の学区で割れば約19万世帯となる。


 福岡市内には7つの区があり、最も人口が多い博多区が25万人で10万世帯、次いで多い中央区20万人で8万世帯。つまり、2つの区程度を「パトロール」すれば被害者宅に辿り着くのだ。


 そして、こういう時のマスコミの嗅覚はすごい。特定班が福岡市内をくまなくパトロールしているとある家の前に人混みができていた。中には脚立を持っている人間もいた。マスコミだ。


 子どもが死ぬと最初に親が疑われる。その場合、最初は親が被害者ずらしてマスコミのインタビューに答える。それを撮影しておいて、犯人だと分かった折にはその映像を擦り切れるまで放送するのだ。家の様子や被害者家族の動画をおさえるためにマスコミは既に100人単位で被害者宅の前に集まっていたのだ。


 ネットの特定班は表札を確認、「花園」と書かれていたことから被害者宅を特定してしまった。

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