第17話:捜査会議
ここまでの殺人を順を追って整理しよう。捜査会議において刑事部長がホワイトボードに各被害者の写真と名前を貼っていく。
1人目:名前不明(不明) 首吊り自殺
2人目:花園芽亜里(17) バラバラ殺人(未遂)
3人目:伊藤重三(42) 心臓停止
4人目:宇崎義郎(38) ドローンボム
1人目のところは写真もなく、名前もなにも不明のままだ。
「1人目の被害者の名前と年齢はまだ分からないのか?」
「すいません、難航しています。自殺だと遺族などもあまり話したがらないですし、周囲にも言わないので……」
刑事の一人が答えた。住所も氏名も日付も分からないとなると、自殺者だけでも福岡市内で年間約300人いる。毎日1人程度のペースだ。リストを作って消し込んでいくとしても、死因を聞いて回るのは骨が折れる。先ほど誰かが言ったように、本当のことを教えてもらえるのか微妙だからだ。
刑事部長は考えた。なぜ1人目は名前も年齢も分からないのか。「文豪」の小説を提供されてもそこには書かれていなかったのだ。なぜ、「文豪」はそこを公開しないのか。
「会社員が多いなぁ……」
あごを触りながら考える。被害者4人中3人が男性で、女性は1人。男性ばかりを狙った犯行とは言えない。年齢もバラバラ、殺害方法もバラバラ。結婚も関係ない。子どもも関係ない。共通で通っているジムもない。無差別殺人の場合は、その次の犯行が予想できにくい。
刑事たちの意見を聞いて見たが、ピンとくるものがなかった。それはなぜかと考えてみた。
1人目は分からないけれど、次からの3人の共通点が見つからない。仮に犯人が生活している中で出会った人間を次々殺しているとしたら共通点は犯人が分かるまで見つからない。
例えば、犯人は朝、電車で通勤して、昼休みに定食を食べ、仕事帰りにジムに行ったとする。帰りがけにたい焼きをおみやげに買って帰ったとして、ここで会った朝の通勤で出会う「会社員」、昼休みに昼食の時に近くの席に座った「会社員」、ジムで出会った「会社員」、たい焼き屋のアルバイトの「学生」だと仮定したら4人の共通点はない。しかし、ある1日を通して犯人とどこかで会っていることになる。会うだけで殺されてしまったら犯人も殺人が追い付かなくなる。何かしらのトラブルがあった人を殺しているなどと考えてもトラブルなんて福岡市内だけでも毎日数えきれないほど発生しているだろう。
予告殺人なんて派手に殺しているようだけど、手掛かりは驚くほど少なかった。
では、なぜこれを連続殺人と認識しているのか。それは「文豪」の存在だ。やつが事前に「殺人予告」を入れてくる。
予告時刻をWEB小説の公開日時と殺害発覚の日時を追記した。
1人目:名前不明(不明) 首吊り自殺 1月18日/不明
2人目:花園芽亜里(17) バラバラ殺人(未遂)2月15日/2月1日
3人目:伊藤十三(42) 心臓停止 3月20日/3月5日
4人目:宇崎義郎(38) ドローンボム 4月15日/4月13日
先が2件目、3件目は予告から2週間。4件目は2日。1件目は1月18日の2週間前前後を調べることにした。
「後は、2件目の花園芽亜里が詰め込まれて送られてきたダンボールにはチューリップが入ってました。犯人からの何らかのメッセージではないでしょうか!?」
「3件目、4件目は!?」
「未確認です」
「至急調べてくくれ」
「了解しました!」
調査の結果、3件目の家ではテーブルの上にガーベラの花が1輪置かれていた。家族は被害者男性が拾ってきた物だと思って確認しなかった。テーブルの上は常に散らかっていたので花も変に思っていなかった。
4件目は、現場の草原にアルストロメリアの切り花が1輪落ちていた。普段なら1輪花が落ちていても誰も不思議に思わない。
そして、このことから1件目の首吊り写真の中にスイートピーが写り込んでいることが新たに分かった。首吊りのインパクトが強すぎて誰もその周囲までは注意してみていなかった。
花は、殺人が行われた順に、スイートピー、チューリップ(未遂)、ガーベラ、アルストロメリアと分かった。誰かが殺害された場所で必ず花があったことは偶然とは考えにくかった。
捜査本部は各花の花言葉を調べてみた。なにかしらのメッセージが入っていることを予想してのことだった。
スイートピー「私を忘れないで」「門出」「別離」「永遠の喜び」「優しい思い出」
チューリップ「博愛」「思いやり」
ガーベラ「熱愛」「崇高美」「童心に帰る」「思いやり」
アルストロメリア「持続」「未来への憧れ」「エキゾチック」「小悪魔的な思い」
殺害方法と関係ありそうなものは見つからず、花言葉は関係なさそうだということだけが分かった形だった。要するに、新たに分かったことは何もなかったのだった。
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更新は朝5時に変更してみます。2回投稿の時は5時と6時にしてみます。
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