第44話 道具や技には本当に色々な使い方がある
ラスボスの恋人のレスティと茶をしばいたけど、特に有力な情報は得られなかったな。
ラスボス先生は硬派というか、かなり古臭い人間らしい。今時、黙ってどっかに行くのが恰好良いと思っているのだろうか。
また、レスティの好感度を上げるとレベルが上がる仕様から、レスティルートも可能なのがわかった。
「それじゃあフィリップさん。今日はありがとうございました」
「こちらも有意義な時間を過ごせたよ」
「またお会いしたいですね」
そう言って丁寧にお辞儀をする大お姉様と別れた。
街を歩く背中が悲しそうに見えるのは、ラスボス先生が連絡もなしで勝手にどこかに行ってしまったからだろう。ここでその寂しい背中に声をかけると、昼ドラよりもドロドロの、勇者対魔王の三角関係編がスタートするんだろうな。
無理無理無理。ラスボス先生の恋人に手を出すとかは無理だわ。俺は昼ドラじゃなくて深夜のピュアピュア青春アニメ派だわ。
これが転生じゃなくて、ゲームのプレイヤーとしてなら、そのルートもプレイしてみたいけど、流石に外道勇者過ぎて、どっちが魔王がわかったもんじゃないもんな。
「ほぅ。こちらが情報収集している間、なにをしているかと思えば」
ゾクっとするような声が聞こえて来て、ギギギと錆びついたロボットのように振り返ってみる。
「随分とお楽しみだったようですね」
「カル、ティエ……?」
「そうやって大袈裟に私の名前を呼んでみせても、先の件は誤魔化せませんよ」
「いや、待って。普通に待って」
「待ちません。私がご主人様のためにセーコ様と情報を汗水垂らして探している間に……」
「そのことはありがとうなんだけど、話しが入って来ないんだって」
「ひどいご主人様です。私の話しが入って来ないなんて。長い付き合いなのに、ルティ泣いちゃう」
「長い付き合いだからこそ言わせてもらうが、薄くない?」
「存在が?」
「ああ」
「そんな……。強くて可愛い最強のメイドの存在が薄い?」
「影が薄いとかじゃなくて、物理的に薄いって意味だよ」
そうである。
なんだかカルティエ本人が薄く見えてしまうのだ。
「よくお気づきになられましたね」
「普通気が付くだろ」
「実はセーコ様より分身の術をご教授いただきまして、早速試している最中です」
「え……」
カルティエ、セーコの忍術使えるの? なにそれ、そんな仕様知らない。この子凄すぎ。
「ですが、忍術というのは凄まじいですね。私は分身が出せるのも一人だけですし、本体と分身が薄くなってしまいます。戦闘では使えませんね」
「戦闘で使えれば凄い火力になったんだけどね」
「しかし、違う戦闘では使えますよ」
「違う戦闘?」
「はい。これでご主人様と3
「おいい! 伏字のところをピーと読ませているから伏字の意味がねぇぞ!!」
「ああん、これでご主人様に愛されたらどうなるのでしょうか♡」
「チューで結婚の純愛ストーリーでそんなことしたらこの世界が滅ぶわっ!」
俺の声は届かずに、薄いカルティエはくねくねしていた。
「おい、ルティ。それでお前は今、分身して片方は情報収集を続けているってことだよな?」
「はい。ちなみにセーコ様ははっきりと七人出して情報収集しておられます」
セーコの奴は七人で情報収取しているのか。そりゃ情報屋として有名になるわけだな。単純に作業効率が七倍だもんな。
「状況はわかった。ルティとセーコは分身の術を使って情報収集を続けていると」
「はい」
「それで、カルティエがひとりやって来たってことは、俺になにか大事な情報を伝えに来たってことだよな?」
「流石ご主人様。私のことをよくおわかりになられておられます」
「ルティはずっと俺の側にいてくれているからな。それくらいわかって当然だろ」
「……あのご主人様」
「んー?」
「私も早く七人の分身ができるようになりますから、その時は驚愕の8──」
「やめとけっ! これ以上下ネタを言うな!」
「だってぇ。ご主人様が嬉しいことをナチュラルに言ってくださるんですもん。嬉しくて、ご主人様のためにルティハーレムを築きたくなるじゃないですかぁ」
「それは──」
かなり魅力的だ。
「それで、ルティの大事な情報ってのは?」
これ以上下ネタはだめだ。なんとなく俺はそう思う。
「あ、はい」
コホンと切り替えるように大事な情報を教えてくれる。
「オメガ先生の目撃情報がありましたよ」
「どこ?」
「海の底です」
「海の底? え、身を投げ出したってこと?」
「違います。魔法を使って海の中に入って行った目撃情報が屈強な船乗りが教えてくれました」
「屈強な船乗りも、長髪のツンデレおじさんが海の底に入って行ったらびっくりするだろうな」
しかし、海の底か……。海の底と言えば色々とダンジョンがあったりするけど。
「アトランティスか」
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