第42話 口先だけの奴には監視がいる

「オメガ?」


 いつセーコが逃げ出すかわからないため、カルティエがセーコの腕を掴んだまま情報を聞き出すことにする。


「んにゃ。そんな人物の情報は持っていないな」


 また適当抜かしているんではないかと思ったが、ウソをついついるような雰囲気ではなかった。


「そうか」


「旦那達はそいつの情報が欲しいのか?」


「情報つうか居場所を……」


 いや、待てよ。


 ブレイブアンドレアでもラスボスの情報は少なかった。ここはセーコにラスボス先生の情報を集めてもらいつつ、ラスボス先生の居場所を探してもらうのが得策か。


「そいつの情報と今いる居場所を探して欲しい」


「ふんふん。りょーかい」


 セーコが簡単に頷いてくれると、チラチラとカウンター席に置いてある大量の金貨に目をやる。


「旦那。わっしもボランティアじゃないんで、その、ね?」


「お金が必要ですか?」


 俺が答える前にカルティエが口を開く。


「ひぃ」


「そんなに怯えないでください。もちろん報酬はお支払い致します」


 ですが……。


 ギュッとカルティエはセーコを握っている手を強めた。


「あだだ!」


「もし、逃げ出した場合、わかっておりますよね?」


「わかっております! わかっておりますとも奥様!!」


「奥、様?」


 ポッと顔を赤らめるカルティエ。


「奥様だなんて。そんな……わかっておいでではありませんか、セーコ様」


「あだだだだだだ!! なんでえええ!? 強くなってる!! 強くなってるからあああ!! 旦那、あんたの嫁を止めてくれえええ!」


「それで、金はいくらいるんだ?」


「なんでこの状況で交渉に移れるんだ!? サイコパスか! サイコパス夫婦かっ!」


「三万で良い?」


「わかった! 三万で良い!! 三万で良いから、止めてくれえええ!!」



「ぜぇ、はぁ……」


 肩で息をするセーコはこちらを睨み付けて来たので、アイドルスマイルを返してやる。


「ほんじゃ頼んだぜ、セーコ」


「本当に勇者の末裔かよ。魔王の末裔なんじゃねぇか?」


「なんだ、俺のこと知ってんのか」


 一応、現段階では初対面なんだけどな。


「当然だろ。勇者の末裔なんだからよ。バズテック王家のフィリップ王子。剣の達人だが、なんの意味があるのか魔法学園に通い出した。裏の奴等曰く、勇者としての重圧に耐えられなくて頭がイカれちまったとさ」


「そんな噂されてんだな」


「ご主人様は裏でも頭がイカれていると思われているのですね」


「あっれ? その言い方はルティもそう思ってんの?」


「はい」


「即答の破壊力ってえぐいよね」


「勘違いしないでください。頭がイカれているご主人様も大好きなんだからね」


「そりゃ、どーも」


 なんだか複雑な気分だわ。


「サイコパス夫婦の会話はそれくらいで良いかい?」


「サイコパス夫婦とか言うな」


「ま、このセーコ様に知らない人物はいないから、どーんと大船に乗ったつもりでいな!」


「オメガは知らないのに?」


「うっ!」


 あら。急所に当たっちゃったかな。


「も、モブのことはわかんねぇわ!」


 ラスボスをモブ扱いとはね。


「ほんじゃまぁ頼むわ」


「ご主人様」


 今回は言葉数が少ないカルティエがこちらに喋りかけてくれる。


「どったの?」


「セーコ様は少し怪しい部分がありますゆえ、私も彼女に同行しようかと思います」


「良いのか?」


「はい。逃げた瞬間に刀の錆にしてまいります」


「は、はは。に、逃げたり、しねぇよ」


 ギロリとカルティエが睨み付けると、ビクッとなるセーコ。


「わ、わかった。奥様も同行してくれて構わない」


「よろしくお願いします」


 まぁ逃げ出すおそれもあったからな。カルティエが一緒なら安心だ。



 カルティエとセーコが情報収集に向かい、一人裏路地から表通りに戻って来る。


 特にやることもないし、さっさと帰るかと思っている時だった。


「あ、あなたは……」


「レスティ……」


 ラスボス先生の彼女とエンカウントしてしまったよ。

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