第41話 くのいち対忍者(メイド)はい、忍者(メイド)の圧勝でした

 全身をマントで覆い、フードを深く被っていた人物がフードを取る。


 フードの中身は、栗色の髪をサイドポニーにした同い年くらいの美少女。


「セーコ……」


 セーコ・ミナセはブレイブアンドレアのヒロインのひとりだ。


 職業はくのいち。小柄な身長を活かした戦闘スタイルで、くのいちらしくスピードがある。


 そして魔法が使えない代わりに忍法を使用する。彼女の忍法は火遁、水遁、煙遁、金遁、などなどの忍術を使用して戦う──んだけど、ね。うん。


「忍術とかゲキ熱じゃねぇかよ!」なんて夢見るプレイヤーの心を何本折ったのだろうか。


 セーコは弱い。べらぼーに弱い。


 火力は低いし、なにより紙装甲なのすぐしぬ。


 スピードと回避力は別物なので、当たらなければどうということはないというわけではなく、すぅぐ攻撃が当たって、すぅぐしぬ。


 そりゃ忍者、くのいちは戦闘要因じゃなくて情報種集が目的の職業だけど、そこはリアルに寄せなくても良かったじゃんって感じ?


 セーコ縛りだなんて、セーコ単騎でクリアを目指すプレイをして、地獄を見ている動画が何本も上がっていたな。


 間違いなく本作最弱キャラ。


「ん? 私のことを知ってるのか。ふっ、私も有名になり過ぎたな。あまり有名になるのは良くないんだがな」


「……」


 最弱キャラがイキってなんか言ってやがる。


「それであんたら、そんな大金を持って私に会いに来たのかい?」


 おっと、今はジト目でセーコを見ている場合じゃないな。


「あ、ああ。まぁな。情報が欲しくてさ」


「情報が欲しい、ね」


 頷くとセーコはカウンター席の金貨を手に取り、コイントスを始めた。


「私は金で動く人間じゃあない」


 パシッ手の甲でコインを受け取り、こちらを試す様な顔をして聞いて来やがる。


「ここは私とゲームをしよう。あんたらがこのコインの裏表を──」


「「表」」


 俺とカルティエの声が重なった。


「おいおい、おふたりさん。そんな簡単に決めて良いのかい? なんならふたりで相談──」


「「表」」


「頑固なお客さんだ。そんなにせっかちだったら欲しいものも──」


 手を上げた瞬間、表なのが見えたが、セーコが素早く手で動かそうとした瞬間だった。


「いったあああい!」


 急に女の子みたいに叫び出した。


 いつの間にかカルティエがセーコの後ろに回り込み、イカサマをしようとした手を掴んでいた。


 流石忍者。カルティエ忍者。アサシン忍者。くのいちより忍者してやがる。


「ちょ、な、なにすんの!?」


「次、イキってイカサマしようとしたり、逃げようとしたら、コロス」


「ひいいいい!」


 うわー。高校デビューしようとしていた雑魚イキリが、ガチヤンキーにしめられる瞬間を目の当たりにしている感じだわー。こえー。


「ルティ。話をしに来たんだからそこまでにしな」


「はい」


 スッ! っと素早くカウンター席に戻るカルティエを見て、セーコは嫌な汗を流しながら不敵に笑っている。


「え、エクセレント。今のは非常に良かったよ」


「なんでこの後におよんでイキってんだよ。自重しろよ」


「次のゲームといこうか、おふたりさん」


「まだやんのかよ」


「次のゲームは──」


 言いながらセーコが徐々に増えていく。


 ひとり、ふたり、さんにん──。


「「「「「「「本物の私を捕まえることだ」」」」」」」


 七人のセーコ。


 これはセーコの忍術分身の術だ。


 この忍術で破格の七回攻撃が可能だが、察しの通り火力が低すぎるため、七回攻撃をしても俺やカルティエの三分の一程度しか火力が出ない上に、消費が激しくて一、二回しか使えない。


「「「「「「「あははははー!!!!!!!! 本物の私を捕まえることなどできるはずもなかろー!!!!!!! 」」」」」」」


 そう言いながら店の中を四方八方に動き回る七人のセーコ。


 いや、正確には六人か。


 一人は真っ直ぐに店の出口に突っ走って逃げようとしていた。


 でも残念。


「捕まえました」


「なっ!?」


 そこにはカルティエだ。


 セーコが逃げると読んで既に出口に立っていたもんな。


「セーコ様。私の先程のセリフは覚えていらっしゃいますでしょうか?」


「あ、へあへぇ?」


「イカサマしたり、逃げようとしたら?」


「ひいいいいいい!! なんでも言うこと聞きますぅ! なんでも言うこと聞きますから殺さないでええええええ!」


 あー、美人の脅しって効果あるんだなー。


 この後、セーコにしっぽりと情報を聞き出すことにした。


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