第37話 ラスボス先生は怪しいけど平和な日常が続いております

 班別実技試験は魔界の帝王の出現により中止となった。


 中止なら試験結果はどうなったのだと気になるところだが、試験の結果発表は特になし。


 聞こうにもラスボス先生が試験以降姿をあらわしていないから聞けない。


 あのラスボス、絶対なんか企んでやがる。


 魔界の帝王を見たときの怪しい笑み。あれは怪しすぎる。


 なにを企んでいる? ブレイブアンドレアではないパターンだから全くもってわからない。


「考え事をしている王子も素敵♡」


 一年G組の教室で考え事をしていると、ギュッと右腕にしがみついてくる。


「お、おい。ルカ。急に抱き着くなよ」


「ここは安心する」


「俺は抱き枕じゃないぞ」


「当然。王子はワタシの運命の相手」


「運命の相手って……」


「ちょっとそこをどきなさいマグロ」


 ルカへ隠語を放ちながらやって来たのはティファニー。橙色の甲冑を外し、ちゃんと魔法学園の制服を着ている。ちゃんと着ているが上着がぶかぶかで萌え袖になっている。上着がぶかぶかなのは俺が彼女に貸したものだからだ。


「は? どかない。しかもワタシはマグロじゃない。めっちゃ感じる」


「あんたのこととかどうでもいいから。さっさと王子から離れなさいよ。困っているでしょ」


「困っているのはあなたが来たから。さっさと制服を返すべき」


「あら、なに? 嫉妬? これが王子からもらったものだからって嫉妬してるの? あはは。かわいいところあるじゃない」


 俺があげたことになっているんだが。


「王子。ネクタイ貸して」


「ネクタイ? 別に良いけど」


 俺はネクタイを解きルカに貸してやる。


「着けて」


「ああ」


 ルカへネクタイを着けてやると、ティファニーへどや顔をする。


「どう? もはやワタシ達は新婚」


 今ので新婚って言うのは無理があるだろ。


「きいいい! 羨ましい!!」


 あ、羨ましいんだ。


 ティファニーがルカと反対側の腕に抱き着いてくる。


「か、勘違いしないでよね。あんたと抱き着きたくて抱き着いているんじゃなくて、片方だけに抱き着かれたらバランスが悪いから抱き着いてあげているんだから」


「おお。王道ツンデレ」


 カルティエのツンデレナイにすっかり慣れていたから、ティファニーのツンデレが新鮮に感じる。


 というか、試験以降にルカとティファニーの好感度がすっかり上がってしまった。


 魔界の帝王の攻撃を庇おうとしたおかげだろう。


 レベル確認のため、闘技場で試し斬りしてきたら中盤クラスをワンパンで倒せた。一気にレベルが上がってしまったな。


 やはり本編のヒロインだけなく、この世界は他の女の子との好感度を上げればレベルが上がるみたいだ。


「お、お、王子!」


 ルカとティファニーに挟まれているとハイネが信じられないものを見る目でこちらを見てくる。


「ど、どうやってふたりを丸め込んだのですか!?」


「丸め込んだって人聞きが悪いな」


「ふ、普通じゃない。だって、このふたりは会えば喧嘩をする」


「今もしてるけど?」


 視線でふたりをさすと、「離れなさいよマグロ」、「うるさい。勘違い処女ビッチ」と言い合いをしている。


「違います! こんな平和てきな喧嘩ではなく、殺し合いなのです!」


「殺し合いぃ?」


「それを全力で止めなくてはならない。全力でですよ!?」


「あーはは……」


「いや、しかし!」


 ハイネは続け様に言ってくる。


「カルティエとシャネル様のお二方も大概でした! 大概でしたよ!!」


「そういえば試験中はカルティエしか見えなかったな」


「そりゃそうですよ! みんな勝手に行動して! ボクだけ置いてけぼり! カルティエは真っ先に王子を探して一直線。シャネル様も後を追っていましてけど、襲い掛かる生徒達をオーバーキルで葬っている始末」


 容易に想像できるな。


「お、王子ぃ。どうやったらみんなをまとめらるのですかぁ。ご教授ねがいますぅ」


 藁にも縋る思いでこちらに懇願してくるハイネ。


「甲冑を脱ぐしかない」


「そうね。甲冑を脱ぐしかない」


 ルカとティファニーから助言が入るとハイネは、「喜んで!」と甲冑を脱いだ。


 いやな予感がする。


「ま、待て! 腐女子歓喜な展開に──」


「させません!」


「ぶふっ!」


 ハイネはカルティエの回し蹴りをくらって、ゴルフボールみたいに教室の窓から外へ出て行った。


「ふぁあああああああああああああ!」


 一応、ゴルフの時に叫ぶやつをやっておこう。ゴルフしたことないから知らんけど、なんかどっかいった時はこんな感じで叫んでいた気がする。


「さてご主人様。ふざけた声を出している余裕がおありなのでしょうか?」


 ゴクリと生唾を飲んでしまう。


 カルティエの目が逝っている。


 やばい。


「待て待てルティ。お前はヤンデレじゃないだろ」


「ええ。私はご主人様にデレデレです」


「ありがとうございます。だから、その殺戮の刀はどうぞお納めになってください」


「あら、私はデレデレだと仰ったではありませんか。大丈夫です。そちらのメスふたりの血でデレデレにしてあげますよ」


「怖いよ。血のことをデレデレと表記するのはもうホラーだよ」


 カルティエの奴、本気でやる気だ。


 そんな彼女を前にルカとティファニーは戦闘態勢に入った。


「いくら相手が強大でも決してあきらめない」


「ワタシ達が愛した人との未来をあんたなんかに奪われてたまるか」


 なんかこっちサイドが主人公株出してきているんですけど。


「もうご主人様に近づけないように完膚なきまでに叩きのめしてあげます」


 カルティエがボスっぽくなっているんですけど。


「「「いくわよ!!!」」」


「教室でわーわー騒ぐな阿呆共」


 突如として現れた黒の甲冑、クロノスがその場をおさめる。


「次、騒いだらぶち殺すぞ」


 口の悪いクロノスが、どすんと機嫌悪く席に座った。


 だが、俺達は彼の言葉を無視することはできなかった。


 それほどまでに彼のレベルが高いからだ。


 流石は裏ボスさん。


 レベルが上がったと言っても、まだまだ裏ボスさんには届いていないな。

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