第35話 正(巨乳)ヒロイン対サブ(貧乳)ヒロイン

 目の前にあらわれたのは、いつも隣にいてくれる右腕系メイドのカルティエ。


 いつも無条件で俺の味方をしてくれて、なんでもしてくれる最強のメイド様。


 今は敵として目の前にあらわれているが、こうやって敵として対峙するとカルティエの凄さが改めてわかる。


「やばいな。相手は巨乳ヒロインだ。サブ貧乳ヒロインふたりがかりで勝てるはずもない」


「ちょっとあんた。色々と失礼な発言が過ぎるんじゃない?」


「しかし王子の言っていることはもっとも。ワタシとティファニーだけじゃ勝てない」


「ルカ、それは戦闘って意味かしら? それとも胸の話?」


「両方とも」


「……」


 ティファニーは随分と難しそうな顔をしてみせた。


「認めてあげるわ。実際、カルティエにはダンジョン実習で負けているものね」


「負けを認めるのは恥ではない。そこから学び、立ち上がることが大事」


「そうよね。恥じゃないわよね」


「ふたりの盛り上がりに水を差すのは申し訳ないが、ティファニーはもう少し恥じらってくれ」


「は? 今のアタシは負けた恥を乗り越えて更に成長を見せる大魔法使い様よ」


「そっちじゃねーわ。裸なのを恥じらえって言ってんの」


「そうね。あの時の恥は丸裸にされたくらいの恥だったわね」


「ちげーよ。精神的な裸じゃなくて、物理的に裸なんだよ」


「でも大丈夫よ王子。アタシは裸の恥を乗り越えて強くなる」


「ねぇボケてんの? 文字通りに体を張ってボケてんの? カルティエの顔を見ろって。目がやべーんだって」


 ティファニーに謎のスイッチが入って向上心むき出しのセリフを吐いている間にもカルティエの瞳孔が開いていっていた。


「ご主人様? どうして私以外の女の子と抱き合っているのですかぁ? しかも一人は裸ですしぃ。ナニヲシテイタノデスカ?」


 あかん。めっちゃ怖い。三年目の浮気がバレた旦那の気分だ。


「待て待てルティ。誤解だ。まずは落ち着いて話をしよう。な?」


「私は落ち着いていますよー。ですが、ご主人様の股間は落ち着いてなさそうですねー」


 あ、やっぱりバレた。そりゃ男はどんなおっぱいでも押し付けられたら破裂しそうなほどに息子が膨れ上がるんです。はい。


「カルティエ。アタシは前のアタシじゃない。今、アタシには仲間貧乳がいる。仲間貧乳派がいる。ね? ルカ! 王子!」


「うん! 巨乳ヒロインになんか負けない!」


「俺を巻き込むな!」


「王子。アタシ貧乳達を勝利巨乳撲滅に導いて!」


「勝手に盛り上がるなっての!!」


「「今時は巨乳ヒロインじゃなく、サブ貧乳ヒロインの時代!!」」


 犬猿の仲であるクーデレさんとツンデレさんが結託した声を出した瞬間であった。


 キンッ!


「──っぶねぇ」


 カルティエが俺の股間へと殺戮の刀を振っていた。


 ルカからもらったツバメの剣の反応でなんとか耐えれたが、ロングソードだったらオスとしての威厳がなくなっていたところだ。


「おいおいルティ。愛しのご主人様が女の子になっても良いのか?」


「ご主人様でしたら女の子でも大丈夫です♡ 一生愛しますよ♡♡」


「俺は男として愛して欲しいな」


「しょうがありません。ここで男の子コンティニューチャンスです」


「なんちゅうネーミングのチャンスタイムだ」


「ご主人様は正義巨乳派? 貧乳派?」


 そんなもん迷うはずもなし。


「俺は──」

正義貧乳! はあああ!」


 俺が答える前に、ルカが黄金の剣でカルティエに斬りかかる。


「……」


 カルティエはルカの剣撃をするりとかわすと、華麗な回し蹴りをルカへおみまいした。


「ぐはっ!」


 クリーンヒットした回し蹴りにより、ルカは森の奥の方へと飛ばされてしまった。


「流石は武道家様。蹴りの威力が段違いだ」


「私は武道家ではなくメイドです。ただし、今だけはご主人様へお仕置きをする調教師ですがね」


「いやな転職を果たしてやがる」


「『ファイアーナイフ』」


 ルカへの回し蹴りで若干の隙ができたカルティエへ、ティファニーの炎の魔法が放たれる。


 この魔法はかなりえげつない魔法だ。


 文字通り、炎のナイフなのだが、その数は無数。


 流石は裸になっても四天王。無数の炎のナイフを扱えるみたい。


「蜂の巣になって燃え尽きなさい!」


 あ、本編でもあるセリフが飛んで来て若干嬉しい。


「……」


 カルティエは四方八方から飛んでくる炎のナイフに屈することなく、その場で鎮まり、刀を納めた。


「はっ!!」


 次の瞬間、気合いの言葉と共に刀を一振り。


 居合斬りだ。


 カルティエの一振りで炎のナイフは全て消えた。


「なっ!? 恥を捨てて成長したアタシの魔法がっ!?」


「その程度の恥では私を倒すことは不可能。キャラ崩壊しないとこちら側までは辿り着けませんよ」


 カルティエ。自分がキャラ崩壊していることに気が付いているんだな。


「さてご主人様。貧乳の道に堕ちようとした償い、正義巨乳によって正してあげます」


 刀を構え、今まさに俺へと攻撃を仕掛けるところであった。


「キャラ崩壊をしたらこいつを倒せる?」


 森の奥へと飛ばされたはずのルカがケロッとした顔で戻って来る。


 その背後には──。


 ギャラアアアア──────!!!!!!


 グングニルみたいな槍を二本持った巨大で禍々しい魔王みたいな怪物の姿が見えた。


「おまっ、えええええ!? なんで魔界の帝王を連れて帰ってんだよおおおおお!?」


 ケープコッドの森の中にて、魔界の帝王があらわらた。

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