第33話 今から殺し合いをしてもらいますは冗談でも言わないで
班別対抗試験ってのは俺が魔物狩りをしていた森で行われるらしい。
「む? なんだか魔物の数が減っている気がするな」
ラスボス先生が森の様子を伺いながら小さくこぼした。
そりゃ、ね。俺が荒らしに荒らしたからなぁ。
「自然相手だから仕方ないか……」
ぶつぶつと呟き終えると、ラスボス先生が俺達を見渡した。
「これよりお前達には殺し合いをしてもらう」
なにそのバトルロワイヤルな感じ。
「──冗談だ」
ラスボス先生が言うと冗談にならないからやめて欲しい。
「しかしだ。今からお前達にはこの森を舞台に班同士で戦ってもらう。手段は問わない。全力で相手を殲滅しろ」
班別対抗試験の内容を説明した瞬間、生徒達からはブーイングの嵐が巻き起こった。
「でも先生! 流石に班のパワーバランスが違い過ぎます!」
「そうですよ! 私達のパーティなんてバフ要員しかいません!」
「こっちなんてデバフだけだぞ!」
「こんなも不公平過ぎます!」
珍しくラスボス先生に不満の声が上がる。
確かに生徒達の言うとおり、パワーバランスはめちゃくちゃだ。
試験内容を前もって説明していたらこうはならんかったろうに。
流石にこの不平等には文句の一つも出るみたい。
「しずまれい!!」
バサバサバサ。
ラスボス先生の怒号に森の中にいた鳥達が一斉に飛び出し、生徒達は黙りこくった。
「確かにパワーバランスは最悪だ。だがな、社会に出たらこんな理不尽なんてありふれている。理不尽に耐えろとは言わない。知恵を絞り出せ。現状でできる限りの策を練ろ。それができないのなら黙って死ね」
うわー、辛辣ぅ。教育者としては最悪。
つうか、理不尽に耐えろとは言わないって言ってる割に、黙って死ねとか矛盾してない?
でもまぁ、こんな大人は五万といるわな。
言わんとしてることはわからんでもない。現実は平等でも公平でもない。パワーバランスなんて考えてくれる大人なんていないもんな。
「お前らの敵は班だけじゃない。魔物も襲ってくる。相手の班のことを考えながら、自然の脅威である魔物のことも頭に含めて戦闘に臨むことだ」
そう言いながらラスボス先生は呪文を唱えた。
次に瞬きをした時、俺の目の前には魔法学園の制服を着たクーデレさんことルカ・ヴィートンと、橙色の甲冑を着たツンデレさんこと、ティファニー・アトラスだけになった。
ラスボス先生がワープの魔法でも唱えたのだろう。
「はぁ……本当にこのパーティでやるのね」
王道ツンデレのティファニーはやれやれとため息混じりで言ってのける。
「こんなパーティで勝てるわけないじゃない」
「なにを根拠に言っているのか意味不明。これだからバカは困る」
「はあ!? あんた今、アタシのことをバカって言った!?」
「バカにバカと言ってなにか悪い?」
「なんでワタシがバカ呼ばわりされないといけないのよ!」
「そもそも魔法学園なのに甲冑を着ているところなんてあさはか」
「これは……なんというか、性というか……」
四天王のユニフォームだもんねぇ。でも、現段階で四天王とかないからなんて答えたら良いかわかんないよねぇ。
「というか! あんただって甲冑着てたじゃない!」
「過去にこだわるなんてあさはか。でも教えてあげる。今のトレンドは魔法学園の制服。間違いない」
ルカがくるりと一回転をすると、スカートから水色のストライプのパンツがこんにちはをしてくれた。
なるほど。やはり水色ストライプは正義ということですな。
「ぐぬぬぅ。可愛い……」
あ、ツンデレさんが可愛いと口走ってしまったよ。
「ふ、ふん! べ、別にそんな制服羨ましくなんてないんだからね!」
「いや、羨ましいとかどうじゃなくて、普通に制服着ろよ」
あ、やべ。ついツッコミを入れてしまった。
「魔法学園は制服を着なければならない」
「うっ……」
ツンデレさんが俺達の正論にぷるぷる震えている。
「見つけだぞ! 囲めっ!」
俺達がまったりコントなんてしていると、他の班に見つかったみたいで、襲いかかってくる。
「うっさいわよ!! バカ共!!」
ツンデレさんの言葉と共に体にずっしりとした重みを感じる。
ツンデレさんが、『グラビティプレス』を唱えたみたいだ。
重力変化の範囲攻撃。
周り一体の重力を変えた。
この前、ダンジョン実習でも唱えていたが、それよりも更に重力を感じる。
ただ、俺もレベルが上がったからか耐えられる。
他の班の連中は車に轢かれたカエルみたいにぺちゃんこになってるな。
「ワタシはこの甲冑で良いの! 魔法学園の制服なんて着ないの! もうこの話はおしまい! さっさと作戦を練るわよ!」
グラビティプレスを放ったまま作戦を練るとか言い出す始末。
せめて魔法を解いてからにして欲しいが、ツンデレを拗らせてこちらの言葉は届いていないみたいだった。
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