第25話 こうなりゃレベルカンスト目指してやる

 翌日の魔法学園は、昨日の出来事がウソのように平穏な日常であった。


 相変わらずコンプラ無視で授業を進めるラスボス先生。目が合うと俺を殺そうとするような目で見て来る始末。


 あー、日常だなぁと実感しちまうね。


 ま、ラスボス先生からどんな目で見られても今のところはどうでも良い。ラスボス先生が人間を根絶やしにする魔王にさえならなければなんでもいい。今のところはその兆しがなさそうだ。


 しかし、いつ魔王に闇堕ちしてもおかしくはない。


 この世界はなにが起こるのか全く予想がつかない。


 昨日も急にレスティが攫われて殺されそうになっていた。あれを助けなかったら無事にラスボス先生は魔王になっていただろう。レスティが次も襲われないと断言できるわけじゃない。


 だからこそ、脳筋の俺が魔法の一つでも覚えて世界を変えたいと思うのだが……。


「だめだ。全然だめ」


 授業が終わると、プシューと頭から煙を上げて机に突っ伏す。


 ラスボス先生の授業はもちろん、この学園の魔法授業が俺に意味を成さない。いや、授業の内容はめちゃくちゃわかりやすい。俺に魔法の素質があればメキメキ成長できただろう。


 でも、魔法が使えないから魔法の知識だけ高めてもだめなんよね。知識だけが増えて使えない魔法。なんとも皮肉なもんだ。


 はぁ……やっぱ脳筋は脳筋らしく剣を振れってか……。


「王子。大丈夫ですか?」


 隣の席に座る黄緑の甲冑を着たハイネが心配そうに聞いてくれる。


 この前のダンジョン実習の時のヤンデレ感がウソみたいな爽やかな顔で心配してくれる。


「はは。俺なんて魔法が使えないただのゴミだよ……」


「そんなことないですよ。なんて上辺だけの言葉をかけるのは簡単ですので、ボクから少しだけ言わせてください。王子は剣の才能に恵まれた勇者です。ボクにはそちらの方が羨ましいですが、それでも慢心せず、弱点を補おうと努力しております。そんな努力している方なのですから、必ずや魔法を使える日が来ると思います。なんでも言ってください。お手伝いしますよ」


 うわぁ。状態異常さん、めっちゃ良い人。こりゃ中間管理職になって板挟みになるタイプだわ。


「ありがとうハイネ。元気出たよ」


「あまり根を詰めないで、気分転換も必要ですよ」


「気分転換か……」


 彼の言葉が妙に胸に響いた。


 そうだよな。


 脳筋が魔法を覚えたら世界が大きく変わって俺が死ぬ未来も変わるとは思うが、それだけが変わる方法じゃない。


 魔法が覚えられないと嘆くだけじゃなく、気分転換をして、その中に運命を変えるヒントが生まれるやも知れん。


 気分転換といえば、まだ他にやりたいことを思い出し、俺は席を立ってカルティエのところへと向かった。


「ご主人様。いかがなさいましたか?」


 カルティエの好感度はMAX。だけどこの状態で好感度を上げても俺のレベルが上がった。


 つまり、この世界のヒロインの好感度に頭打ちはないっ! と思う!


「世界一の美女であるルティとランチをしたいと思ってな。ははっ」


 今からカルティエの好感度をぶち上げてレベルカンストを目指す!


「王子……気分転換とは言いましたが、女を口説くなんて……」


 ハイネの評価が下がった気がした。


「は? 私が世界一の美女とか当たり前過ぎて草生えるんですが」


「草とか言うな」


「急になんですか? 頭おかしくなってしまいましたか?」


「ルティのことを世界一の美女って認識してるんだから正常だろ」


「ふぅん。変なご主人様」


 しまったな。唐突過ぎてこれじゃ好感度が上がらないか。


「勘違いしないでください。私が世界一の美女なのは当然ですが、ご主人様のイケイケボイスで言われるのが嬉しいんですからねっ」


 あ、これ好感度入ってるわ。上がってるわ。ツンデレナイいたただきましたもん。


「ほらほら。ランチでしょ。私がご主人様に特製のラブラブランチをご馳走してあげます」


「それは待て。俺等は基本的に学食だぞ」


「そんなものはキッチンを乗っとれば済む話です」


「それは犯罪者では?」


「勇者の特権でしょ?」


「あ、俺が乗っ取るのね。やっぱお前頭良いわ」


 カルティエの好感度を上げるために学食のキッチンを乗っ取った。つうか、普通にキッチンの人が、「使っていいよ」って言ってくれた。

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