第22話 こちとら遊びでやってんじゃねぇんだ
ラスボス先生の恋人であるレスティが数人に誘拐されてしまっている。
これっていうのは、ブレイブアンドレアのラスボス先生の回想シーンで出て来る薄いシーンに似ている。
確か、レスティというエルフは特殊なエルフで、血を流すとそれか宝石になるとかいう設定だったな。
それを知ったモブの盗賊だが山賊だが海賊がレスティをさらって殺してしまう。それを目撃したラスボスがブチキレてレスティを殺した奴等を惨殺。無事に魔王になって人間を絶滅させようとする流れ──。
「このままじゃまずいな……」
今の流れは完全にラスボス先生が魔王になるフラグがビンビンに立っていやがる。せっかく、ゆったりまったりの魔法学園編が、このままじゃブレイブアンドレアがスタートしちまうぞ。全力で阻止しなければ。
「こりゃまた人気のない倉庫なこって」
ケープコッドの端の方。人通りがほとんどなく、廃墟と化した貨物倉庫。扉にはちゃんと鍵がかかっている。
「ルティ」
「かしこまりました」
名前を呼んだだけでなにをして欲しいか察したルティが、鍵のかかった扉を蹴り飛ばした。
ガシャコン!
とんでもない音と共に、扉が吹っ飛んで行く。
「きゃはは! おらおら!」
「おい、殺すなよ。半殺しにしろ」
「わかってますよ、親分」
「うっひょー! 本当に血が宝石になりやがる!」
「これで俺達も大金持ちだ!」
ドゴ! ゴス!
嫌な音が倉庫内に響き渡る。
レスティの悲鳴は全く聞こえて来ない。ただただ耐えている。
血を流し、その度にゲスな笑い声で喜ぶ奴等の声にジッと耐えている。
あれだけ派手に扉を破ったというのに、こちらには全く気が付いていない様子だ。
夢中になっているのか、耳があり得ない程悪いのか。
今はどっちでも良い。
この展開をある程度予想していたとはいえ、かなり不快な光景である。
「ルティ。先生の恋人を守るぞ」
「かしこまりました」
先にルティが地面を蹴り、タコ殴りにされているレスティのところに一直線に飛んで行く。
「はっ!」
その勢いのまま、レスティを殴ろうとしていた奴に飛び蹴りをおみまいする。レベルが上がり過ぎているのか、真っ二つになって血の噴水がわきあがる。
「な、なんだ!?」
「お、お前らいつから!?」
本当に俺達のことに気が付いていなかったみたい。慌てふためく奴等にルティが無表情で殺戮の刀を手に持ち、容赦なくもうひとりを斬りつけた。
「ぎゃああああああ!」
斬られたというよりは一斬りで粉砕したといった表現が合う。
「な、なにもんだ! お前!」
小物発言にカルティエは丁寧に答えてみせる。
「血を欲するみなさまへ、メイドが冥土へ血をテイクアウトしにやって来ましたよ」
「ふざけやがって!」
「囲め! 所詮ガキだ!」
「うひひ。それにしても上玉だなぁ」
「囲んでやっちまうかぁ」
「良いですよねぇ、親分!」
「勝手にしろ」
親分と呼ばれた大男が答えると、スタスタと俺の前にやって来る。
目の前に来たのは熊みたいに大きな男である。
「お前、強いだろ」
「……」
「俺達はな、こうやって金になることを生業にしてるが、本質はつえぇ奴と戦いたいって連中の集まりでよ、特に俺なんかは強い奴と戦いたくてこういうことしてんだ」
「……」
「今回は巷で噂のエルフがそこら辺をヒョロそうな奴とヒョロヒョロと歩いたんだがな、あいつは強さとは無縁の男だったな。あれが強い男なら、そのまま強い奴も釣れたんだが、ありゃ弱い。しかしだ、違う強い奴がノコノコ来てくれてよぉ、結果オーライってわけだ。これだからこの仕事はやめられ──」
「なげぇよ」
「──げふっ!」
相手が喋っている間に、熊みたいな奴をロングソードで真っ二つに斬ってやる。
「お、まえ、汚い……ぞ、まだ、話しの途中─」
「外道がほざくな。こっちは遊びでやってんじゃねぇんだ。ゲーム世界の知識を絞り出してなんとか生き残るために必死なんだよ。それを強い奴と戦いたいとか訳わかんねー理由で魔王を復活させようとすんな。さっさとくたばれ!」
オーバーキルの斬撃を披露すると、レベル差があり過ぎるのか、熊みたいな奴は木っ端みじんになった。
「……ふぃ」
ろくに魔物も倒しておらず、レベリングをしていなかったからちょっぴり不安だったけど、カルティエとシャネル、あとはエルメスもかな、高感度が上がっていて良かった。
今の熊みたいな奴でどの程度の強さなのかはわからない。あいつとは本編での戦闘はなかったからな。ただ、カルティエの好感度MAXが効いているだろうから、中盤クラスのレベルにはなっているのだろう。
ステータスオープンって言ってステータスが見れたら良かったんだけどね。ここはゲーム世界であって今の俺の現実世界。そういう機能はないみたいだ。
「さて、ルティは……」
あ、はい。結構な数に囲まれていたのに跡形もなく片付いている。
レスティもドン引きしたような顔をしていた。
「お疲れ様です、ご主人様」
「おつかれー。お互い返り血がやばいな」
「ご主人様の返り血ならいくらでも受け止めますが、ゲス野郎共の血ですから今すぐ脱ぎますね」
「裸族か。待て待て」
「あ、寒さなら大丈夫です。ご主人様と裸でくっつきますので」
「なんで俺も脱ぐ前提なんだよ」
戦闘終了後のまったりとした会話の最中、「『パラライズショック』」と状態異常の魔法が放たれた。
「ご主人様!」
咄嗟にカルティエが俺を庇って魔法を受ける。
「きゃああああああ!」
レベルの高いカルティエが悲鳴を上げてそのまま動けなくなってしまう。
「貴様ら……これはどういうことだ……」
「先生……」
俺達の前にラスボス先生が現れた。
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