第12話 魔王軍だらけのケープコッド魔法学園

 不正があった気がするが、俺はカルティエとシャネルと同じギャロップとなった。


 着ていた制服のブレザーが、ワンポイントだけ青色のラインになっている。真実の鏡によって制服の真の姿が浮かび上がったとうことかな。


 真実とは? と疑問が浮かぶが、この真実を追求すると真実の鏡が殺戮の刀で叩き割られてしまうため、黙っておくとしよう。


 俺達は割り振られた一年G組に入る。Gは多分ギャロップの頭文字なんだろうなぁと思いながら教室に入ると、なんともファンタジー世界とはかけ離れたどこか見覚えのある教室の風景が広がる。


 黒板に机に椅子。後ろの壁にも黒板があり、今から学園ものでも始まるのかと思ってしまうほどだ。


 だからね、うん、甲冑四天王が悪目立ちしとるわ。これほどまでなく目立っている。


 つうかお前ら同じクラスなの? どいつかひとりは同じクラスかなぁって思ったけど、まさか全員同じクラスなの? 欲張るなよ、ぼけ。


 文句を言っても仕方ない。


 どうやら席は予め決まっているみたい。黒板に座席表が貼ってあった。


「ご主人様と席が離れてしまいましたか。仕方ありません。クラスが一緒というだけで幸運ですよね」


 幸運(物理)だけどな。


「フィリップくんと離れちゃったね。近くが良かったな」


 シャネルとも席が離れてしまったみたいで、彼女は残念そうに席に向かう。その時、わーわーきゃーきゃーとシャネルのところへ大勢の人が押しかけた。


 王族だからかな……。くそっ。本来俺が味わうはずの優越感を、あの泥棒ネコめがっ。


 勇者の子孫(男)が勇者子孫(女)に嫉妬しながら俺も自分の席へ向かう。


「うわー……」


 俺の隣、黄緑の甲冑だわー。最悪だわー。こいつ、嫌いなんだよなー。


 魔王配下四天王がひとり、ハイネ・フリードリッヒだったな。


 こいつの戦闘はねちっこくて、状態異常ばっか仕掛けてくんだよ。だから、そんなに強くないけど戦闘時間がやたら長くなるんだよな。そのせいでゲーム機本体が熱くなってゲーム自体がフリーズするんだよ。こいつ現実世界にも状態異常をかけてくるんだよ。そもそもハイネってドイツ圏の名字だろうが。日本だったら佐藤田中みたいな名前だぞ、くそぼけめっ。


 一度こいつにフリーズされたから怒りの感情がわいてくる。


「お隣さんだね。よろしく」


 相変わらずイケボだな、ちくしょう。声優さんの無駄使いだぞ、おい。


「……」


「あ、ごめん。部屋の中にいるのに兜をかぶっているのは失礼だよね」


 え、脱ぐの? 本編じゃ脱がなかったのに……。


 ま、どうせモブのやばい男の顔が出て来るだけだろうけどね。


 カチャリと兜を脱ぐと──。


「初めまして。ボクの名前はハイネ・フリードリッヒです」


 あー、めっちゃイケメンが出て来たわ。


 黄緑のラウンドマッシュイケメン。少女漫画のヒーローみたいなのが出て来たから俺自身がフリーズしたわ。


「フィリップ王子様だよね。これからよろしくね」


 ニコッと微笑んでくれる。待てよ制作陣共。なんでこいつの素顔を出さなかった。こりゃ二次創作界隈が大盛り上がりするくらいのビジュだぞ!


「ふぅん。あんたがバズテックの王子様ね」


 次は橙色の甲冑が来やがった。こいつはツンデレ気質の四天王、ティファニー・アトラスだ。


 エルメスと似た感じの大賢者みたいな四天王。シンプルに強い。


 四天王の中でも一番勇者パーティにちょっかいを出して来る奴だ。かまちょのツンデレさん。王道的ツンデレセリフが相まって、結構人気なキャラだ。こちらも顔出しはしてなかったが……。


 カチャリと兜を取った。


「アタシはティファニー・アトラスよ」


 橙色の長い髪をサイドテールにした勝気な美少女の顔が飛び出した。


 おい制作人共。なんでこれを世に出さない。


「無視とは良い度胸ね。王族だがなんだか知らないけど、アタシが名乗ったのだから名乗りなさいよ」


 凄いな、流石は四天王のツンデレ部門。相手が王族とか関係なく自分を貫いている。


「王族にそんな口の利き方をすると、あなた死ぬ」


 雪のように冷たい声が聞こえ来たかと思うと、水色の甲冑が近づいてくる。


 こいつはルカ・ヴィートン。


 超クールな四天王の女騎士様。作中唯一の三回攻撃するほどに素早い攻撃と、剣と魔法を合わせた剣技で俺達を殺そうとしてくる。ただ防御力が紙装甲なのであまり強くはない。


 お約束と言わんばかりに兜を脱いだ。


「フィリップ王子。お初にお目にかかります。ルカ・ヴィートンです」


 クールな声に忠誠心を露わにするような挨拶。水色のショートヘアでクールな女キャラはそそるな。


 ルカはちらりとティファニーを見て、小馬鹿にしたように笑う。


「貴族なのに王族にきちんと挨拶もできないなんて……あさはか」


「なにをぉぉ!? この子きらーい!」


「ワタシもあなたはなんとなく嫌い」


 あ、このふたりって仲悪いんだね。知らなかった。


「まぁまぁ、ふたり共。落ち着いて」


 ふむ。このふたりの仲裁に入るのがハイネってことか。このふたりのお守りはしんどいだろうな。そりゃ、性格歪んでねちっこい状態異常魔法ばっかり使って八つ当たりしたくもなるのか。


 四天王にも色々あるのね。


「ここは楽しそうですわね」


 さきほどまで囲まれていたシャネルがこちらにやって来る。


 口調が元通りなのは、俺とカルティエ以外の人の前だからかな。


 彼女は三人の甲冑共を見ると、なんだか嬉しそうな顔をした。


「なんだかわたくし、ここにいると落ち着く気がします」


「ボクもなんだか不思議とそう思いました」


「あ、それアタシも思った」


「ワタシも」


 そりゃあんたら元々魔王の配下だからね。シンパシー感じるよね。


「ふんっ。ここは仲良しこよしをするための場所じゃないんだがな」


 そう言いながら少し席の離れた場所に、ヤンキーみたいに座る黒い甲冑の男。


 これはこれは裏ボスさんじゃないっすか、ちわっす。


 この四天王最強の男、クロノスはブレイブアンドレアの裏ボスである。


 復讐のために魔王に近づき、そして魔王を殺そうとしている。


 その背景は多くは語られていないが、彼との会話で出て来る、「オレはオレを捨てた連中を許せない」という言葉が、もしかしたらプルミエールのことを差しているのではないかと噂されている。だとしたら、クロノスの本名はクロノス・プルミエールで、シャネルとは兄妹ということになる。


 兜を取ると──。


 あ、うん。完全に兄妹だね。双子だね。


 シャネルと似ている。もうね、間違いなく双子だわ。


 黒い髪に赤い瞳。少し闇を抱えていそうなイケメン。こりゃ腐女子歓喜のイケメン様です、はい。


 なぜ、これを出さない制作陣。


「初めまして、シャネル・プルミエールですわ」


「……クロノスだ」


 クロノスはプルミエールという名に気が付いていないフリでもしているのか、ナルシストよろしく前髪ふさぁってしてる。


 シャネルも自分と似た顔立ちの男を前に少し戸惑いを見せている。


 この兄妹がどうなるのか気になったところで、ガラガラと教室の扉を開けて誰かが入って来る。


「お前ら、席に着け」


 おいおい、なんだか聞き覚えのある声が聞こえてくるんですけど……まさか……。


「今日からお前らの担任になるオメガ・グローブマスターだ」


 ラスボスさあああああん! なにしてんすかああああああ!

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