第8話 おや? 中ボスさんの様子が……

 レヴィアタンを倒した俺達は港町アクアノートに一度帰還し、討伐報告をした。


 その後、夜も深いため、宿を手配してくれてタダで泊まらせてもらうこととなった。


 泊まらせてもらうのは良いが、カルティエがワンパンで仕留めてくれたから全然疲れていない。


 今日はなんだか目が覚めており、中々寝付けないでいる。


 コンコンコン。


 俺の部屋がノックされた。


「おやすみのところ申し訳ございません。少しよろしいでしょうか?」


 ドア越しの声から、シャネルがやって来たのだと理解した。


「すぐに開ける」


 言いながら部屋のドアを開けると、宿屋の寝巻きに着替えていたシャネルが少し恥ずかしそうに立っていた。


「も、申し訳ございません。こんな夜遅く……」


「いや、ちょうど眠れなかったから気にしなくて良い。なにか用事か?」


 聞くと、長い黒髪を指でいじり、頬を赤らめながら要件を言ってくれる。


「その、さ、先程の言葉……が、わたくし……あたしにすごく響いて……えっと……」


 もじもじと言葉を詰まらせながら口を動かす。


「フィリップ様とは同じ勇者の子孫ということで、わかり合える部分が多いと思うのです」


「そうだな」


「だから、ね、その……くん付けで呼んでも良いですか!?」


 キュッと目を閉じ、腕を伸ばして必死に訴えかけてくる。


「へ……?」


 なんともまぁ間抜けな声が出てしまった。


「くん付け?」


「そ、そそそ、その方がわかり合えている者同士っぽいといいますか……そう呼びたいんです!」


 こんな展開は知らない。俺の知っているイベントじゃない。


 だからこそ、俺は笑みが溢れてしまう。


「シャネルの好きに呼んでくれよ」


 そう言うと、夜中に咲くゲッカビジンの花みたいに綺麗な笑みをみしてくれる。


「ありがとう。フィリップくん♪」


 シャネルが俺の呼び方を変えた。


「俺はシャネルちゃんとでも呼ぼうか?」


「や、やや、や。あたしのことは今まで通りがいいよ」


 一人称も変わり、敬語も抜けている。


 正規のシナリオではない、魔王に襲われなかった結果によるものかどうかわからないが、こっちの方がずっと良い。


 もしかしたら、これが本来のシャネル・プルミエールの姿なのかもしれない。



 宿で夜を明かし、俺達はシャネルの乗った馬車と共に大海原へと旅立つことができた。


 西の大陸にはなんのトラブルもなく到着。


 西の大陸の港からシャネルの馬車ですぐにケープコッド公国へと辿り着いた。


 ここは魔法の国。


 大魔法使いアルコル・ケープコッド大公が納める国で、ここの人達は基本的に魔法で生活をしている夢のような国だ。


 ここの正規シナリオで仲間になるのは大賢者エルメス・ケープコッドだけだ。エルメスの父親のアルコル・ケープコッドはただのセーブポイントだったな。


 大公であり、大魔法使いなんて二つ名があるから、フィリップの父親のカラトラ・バズテック同様に2周目で仲間にできると思ったんだがな。ま、娘のエルメスが大賢者なんて謳っているわけだし、エルメスは作中最強の魔法を使えるもんだから、父親の出る幕はないってこったな。エルメスとアルコルの親子関係もあまり深堀はされていないわけだし。


旅立つ時も、「エルメスを頼むぞ、勇者よ。──ここまでの其方の旅を記録していくかえ?」なんてめちゃくちゃあっさりだったしな。


 正規シナリオのことを思い出しながら、俺達は街に入り馬車から降りた。


「わー、どいて、どいてー!」


 お転婆な魔女っ娘が凄いスピードで俺達の間を駆け抜けると、ピューと風が吹いた。


 魔女っ子の背中を視線で追いかけると、そこら辺を箒で縦横無尽で駆け抜ける人達がいるのが伺える。


 視線を変えれば、屋台では火の魔法で料理をしているのが見えるし、水の魔法でパフォーマンスをしているのも見えた。


「おおー!」


 何度も訪れた場所だが、やはりここが一番テンションの上がる場所だな。


 この国を訪れた時のムービーは完全にハリィ……けふんけふん。とにかくテンションは爆上がりで、関西の超有名テーマパークの来場者が更に上がったとかなんとか。あそこはめちゃくちゃ楽しい場所だもんね。また行きたいな。


「さて、と」


 メインストリートで馬車から降りると、シャネルが手を合わせて話し出す。


「あたしはケープコッド魔法学園の学園長にお話しがあるから行くね」


 シャネルの一人称と抜けた敬語は違和感があるが、すぐに慣れるだろう。


「それじゃ、また入学式で会おうね」


 今から権力を振りかざすんだろうなぁ。王族こわー。


 ま、俺達も裏口入学だからなにも言えないんですけどね。


「ルティ、俺達はどうする?」


「これからは寮生活になります。寮長さんに挨拶と部屋の間取りを確認した上で生活用品の買い出しというのはいかがでしょうか?」


「それもそうだな。じゃ寮に向かうか」


「はい」

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