第6話 中ボスさんの好感度が高いのですが……(ぶるぶる)

 シャネルのおかげで予定通り、港町アクアノートに辿り着いた。


 ブレイブアンドレアの世界は大雑把に五大陸で構成されている。他にも小さな大陸がいくつも存在するが、主となるのは東西南北と中央の五大陸だ。


 バズテック城があるのは南の大陸。ケープコッド公国があるのは西の大陸にあるため、船での移動となる。


 ちなみに正規のシナリオで魔王城と呼ばれている城は中央の大陸にある。大人の事情ですんげー山で囲まれており、ラストまで行くことができない仕様だ。


 魔王城は元々はプルミエール城だったが、本編ではそう呼ばれることはなかった。


 だが、今はまだ魔王が誕生していないため、真ん中の大陸にあるのはプルミエール城ということになるよな。


 この状況でプルミエール城に行ったらどうなっているのか気になるところだが、なんだかろくなことにならなそうだからやめておこう。


「潮風が気持ち良いですね」


 潮の香りがそよ風に乗って俺達を優しく包み込む。


 風に靡いた髪を耳にかけながらカルティエが言ってのける。


 その姿がなんとも麗しい。


 この何気ない仕草はゲームでは味わえないため、この世界に転生し、また違ったカルティエを見られて嬉しく思う。


「ふん。こんなオシャレな町を一緒に歩くのがご主人様だなんて、私は前世でどんだけの徳を積んだんでしょうねっ」


 ほんと……フィリップに転生してからというもの、本編とは違ったカルティエを味わい尽くしているよな。


「フィリップ様とカルティエさんの距離感は物凄く近いものを感じますが、お付き合いなさっておられるのですか?」


 おっと。ここで正規シナリオにもあるセリフが放たれる。


 好感度が高いヒロインがいる場合に発動するイベントだ。


 ヒロインと付き合うには色々と方法がある。王道的なのは、ある程度の好感度を上げて告白するか、されるか。


 今回の場合は特殊なケース。ふたりの好感度が高い場合だね。


 ──え? ちょっと、待って。闇堕ち勇者様の俺への好感度高いの? え、待って、なんで? まだ出会って秒よ? なにがそんなに魅力的だった?


「ん?」


 悪魔的に可愛い角度の首傾げを披露しやがります、この闇堕ち勇者様。ほんと、ヴィジュアル最強だな。


 カルティエ推しの俺はこのまま頷きたいところだが、このままカルティエと恋人となったらどうなるか予想もできん。


 シャネルの好感度が高いのなら、この闇堕ち勇者様が違う意味で闇堕ちしちまうかもしれん。


 ここはカルティエと恋人になるのをグッと抑え、慎重になった方が良い。


「そりゃ俺達は物心ついたころから一緒なんだ。めちゃくちゃ仲良しなのは違いないが、付き合うとかなんとかってのは違うよな」


「その通りです。付き合うとかそんなまどろっこしいことはしません。近いうちにプロポーズの証として主人様の遺伝子が提供されます♡」


 なんかこれ、ツンデレナイとかじゃなくて、ただの変態ではなかろうか。


「そうなのですね。ふふっ、わたくし勘違いしておりました」


 今のは選択肢的にノーを選んだことになったんだね。言葉のチョイス的にはイエスとも思えるが、ま、俺の言葉を尊重してくれたってこったろ。


 しかし、シャネルの好感度が高いのがわかってしまったな。


 ほんと、裏切られたらつよつよで出てくるんじゃないかと心配だ……。



「フィリップ様、カルティエさん。あれって……」


 港町の景色を楽しみながらゆるりと歩いて港の方まで辿り着くと、モブ船乗り達がザワザワと騒いでいるのが見えた。


「どうかしたんですか?」


 俺達はモブ船乗り達の会話に混ざる。


「フィリップ王子じゃねーかよ。ご機嫌よう」


 船乗りらしい男らしい挨拶のあと、すぐに事情を教えてくれる。


「実は《ここらの海溝》にレヴィアタンが出ちまったようで船が出せねーんです」


「レヴィアタン……」


 おいおい。隠し召喚獣じゃねぇかよ。なんで物語の序盤でもう隠し召喚獣が出てくんだ。まだ正規の召喚獣とも会ってねぇわ。


 しかし、このイベントを消化しないとケープコッド公国に行くことはできないんだよね、きっと。


 大きくため息を吐きながら俺は船乗りに言ってやる。


「そいつは俺達に任せてくれ」


 はぁ。ほんと、さっさと魔法学園に入学させてくれよ。

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