第4話 序盤につよつよ中ボスが現れたらバグだと思うよね

 ゴリラの雄たけびを上げても仕方なし。


 落ち着きを取り戻した俺とカルティエは、チュートリアルでやられてしまった御者と馬を丁重に葬ってやる。


「まさかこの平和な時代に山賊が現れるとは思いもしませんでしたね」


「ほんと、色々な意味でまさかだわ」


 ファンタジーな世界だから、平和な世界といえどこういう連中がいるのは頷ける。


 しかしだね、この展開はブレイブアンドレアの正規シナリオのチュートリアルと全く同じなのだよ。


 正規シナリオだと、魔王の意思を継ぐ者が現れ、勇者の末裔である俺は、父上からカルティエとの魔王討伐の旅を命じられる。


 そして旅立ちの日、馬車にてバズテックの山道を移動中に山賊に襲われてしまう。


 ここで山賊相手にこのブレイブアンドレアの世界の戦い方のレクチャーを受ける。


 正規シナリオではなく、魔法学園に入学できたため、もしかしたら戦闘のない世界線だと思ったらそうじゃないみたい。


 くそ、戦闘がないのなら俺の死ぬ未来の可能性が低くなっていただろうに、ちゃんと戦闘があんのかよ。


 学園に入学するんだからギャルゲーで終わらせてくれれば良い物を……。


「ご主人様?」


 カルティエがこちらを心配そうな眼差しで見てくれる。どうやら俺は思い詰めた顔をしていたようだな。


 戦闘があるのはわかっていたことだ。まだ魔王が現れていないから、未来は変わっている可能性がある。切り替えていこう。


「ルティ。これからどうしようか」


 心配かけないようにいつも通りに接すると、安心したような顔をしてくれる。


「そうですね。馬車でアクアノートまで向かう予定でしたが、徒歩でアクアノートまで行くとなると莫大な時間を有すると思われます」


「徒歩でアクアノートなんて現実的じゃないよな」


「ここからならばノーチラス村が近いはずです。そこで馬か馬車を借りてアクアノートに行くのが賢明かと」


「そうなりますよねー」


 これは正規のシナリオと同じパターンだ。


 本来ならば馬車を失ったため、バズテック領土のノーチラス村に出向き、馬車を借りて港町アクアノートに向かう流れ。


 ま、ノーチラス村に行ったら行ったでお使いイベントが始まって、そこから最初のダンジョンに出向いて最初のボスと対峙して──とか、その他諸々のイベントがたんもりとあって、中々アクアノートに行けないんだけどな。


 しかし、できる限り正規シナリオは避けて通りたい。


 ここでノーチラス村に行かず、あえてバズテック城に引き返してみても良いかもしれんな。


「ルティ。ノーチラス村に行くよりも一度城に戻ってみるのはどうかな?」


「ご主人様の仰せのままに」


 カルティエのこの返事は好感度MAXの証だな。


 好感度が低いと小言言ったりしてくるからね。


 俺達はバズテック城の方に戻って行く。


 数分くらい歩いていると、こちらに一台の馬車が向かって来ているのが見えて来た。


「もしや、城の定期便か?」


「いえ、城の定期便の時間ではないと思いますが……」


「ん? あの馬車、どっかで……」


 見覚えのある馬車が俺達の前に止まると、中から黒髪ロングヘアの可憐な美少女が綺麗な髪を靡かせて現れた。


「ご無沙汰しておりますわ。フィリップ様、カルティエさん」


「シャネル・プルミエール……」


 ウソだろ……どうしてこいつが序盤の山にいるんだ……。


 ぷるぷると自然と震えてしまう自分がいるを。


「あら、フィリップ様。久しぶりの再会だと言うのに幽霊でも見ているかのような反応は悲しいですわね」


「ど、どうして、お前がこんなところにいるんだ?」


「近くを通りましたので、久しぶりにフィリップ様へご挨拶をと思いまして」


 ニコッと悪魔的に美しく微笑んだ。


「しかしフィリップ様が留守ということで会えず終いでしたが、ここで出会えたのはなにか縁ですね。おふたりはこんなところまでお散歩でしょうか?」


「いえ、実は──」


 カルティエが事情を説明すると、シャネルが相槌を打ちながら聞いてくれた。


「なるほど。今からフィリップ様とカルティエさんはケープコッド公国に向かうのですね。でしたらわたくしがお送りして差し上げましょう。さっ馬車へ入ってくださいませ」


「……」


 こんなところでに会うなんてな……。


 これに乗るか、乗らないか……。


 いや、これも正規シナリオでは考えられないシナリオだ。


 男は度胸。


 勇気を出して乗ってやる。

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