第3話 戦闘がないと思っていた時期がぼくにもありました

「父上。私は16歳の誕生日にケープコッド魔法学園にて魔法を学びたい所存でございます」


 善は急げ。


 魔王の意思を継ぐ者が現れる前に、俺が父上であるバズテック王より魔王討伐の命を受ける前に行動に出る。


「我が息子フィリップよ。いきなりどうしたと言うのだ?」


 いきなり王の書斎に現れたのだから、そりゃ父上も目を丸めるはな。


 しかし、自分の将来の運命がかかっているんだ。なりふり構ってられるか。


 ちなみに、バズテックの王であり父親のカラトラ・バズテックも仲間にすることができる。


 1周目では仲間にできないが、2周目以降、特定の条件で仲間にでき、親子の絆のシナリオが用意されている。


 父親を仲間にできるとは思っていなかったな。最初はただのセーブポイントだと思っていたけど、仲間に出来た時、テンションめっちゃ上がったわ。


 あと、カラトラも勇者の血を引く者だから、勇者装備できるし。親子勇者でラスボスに挑むの激熱だったな。


 ま、主人公死んじゃうんですけどねっ!


「父上。私は勇者の末裔として剣の腕を磨いて参りました」


 実は魔法ばかり修行していたわけじゃない。剣の修行もやっていた。こちらは得意分野なので、メキメキとレベルが上がる。流石は脳筋王子フィリップ。


「しかし、勇者たるもの剣の腕だけ良くともいけません。私は魔法が使えません。ですが我等が先祖は魔法の腕も抜群だったとお聞きします。このままでは、また魔王を名乗る輩が現れた場合、対処できないやも知れません。そうならないためにも、魔法を学びたく、ケープコッド魔法学園に通いたい所存でございます」


 理由としては悪くないだろ? どうだ?


「よくぞ言った。流石は勇者の血を引く我が息子。その心意気、天晴れなり。あいわかった。またいつ魔王が現れても良いようにフィリップにはケープコッド魔法学園にて魔法を学ぶことを命ずる。精進するように」


「はっ!」


 俺は内心でガッツポーズを繰り広げた。


 これで未来が変わってくれれば良いのだが。



 それから一年が経過したのにも関わらず、魔王の意思を継ぐ者は未だに現れていない。


 もしかしたら、このまま魔王なんて現れず、平和な世の中で戦闘もないままに時が過ぎてくれるのではないだろうか。だったらラスボスの戦闘で死ぬ俺は死ぬこともなくなるかも。


「俺達の入学を祝うかのような晴天だよなぁ」


「そうですねぇ」


 16歳の誕生日を迎えた俺は、カルティエと共にケープコッド魔法学園への入学が決まった。


 今はバズテック王家の馬車でケープコッド公国へ向かっているところである。


 ケープコッド魔法学園は六年制。入学条件は16歳以上の魔法使い。しかし俺達は王族の権力を使って入学させてもらった。


 いや、ね。権力を使うとか自分でもどうかと思うけど、命がかかっているから汚くてもなんでも使わないといけんのよ。こちとら必死のパッチなんよね。


 しかしまぁ、魔法学園に入学が決まったからかどうかわからないが、魔王のフラグが立っていないのには驚いた。どうやら未来は確実に変わっている様子。


 このまま、ブレイブアンドレアとは全然違うシナリオを貫いて、目指せ生存のトゥルーエンド!


 そんな矢先──。


「ぎゃあああ!!」


 御者の断末魔の叫びが聞こえると共に、大きく馬車が傾いた。


 そのまま馬車は横転し、俺とカルティエは投げ出されてしまった。


 ちょっと待って、バズテックの山道を走っていると横転するこの展開、なんだかやたらと覚えがあるんだけど。


 顔を上げると、御者と馬車を引いていた馬の首が斬られており、現場には血の雨が降り注いでいた。


「きゃははー! 王族の馬車だああ! 金目のもの全部盗んじまえええ!」


 俺は絶望した。


 現れたのは山賊だ。


「おおん♪ いいねぇ、いいねぇん♪ その絶望した顔ぉ♪ そそるよぉ。俺は貴族が絶望する顔が好きなんだよぉ♪ それが王族ともなるとたまらないなぁ♪」


「お頭。極上の女もいやすぜ? どうしやす?」


「おおー、マブイ女だ。こいつぁ俺達で楽しんだあとに適当に売り払うのもありだな」


 やたらめったら股間を振ってやがる。


「──っざけんな……」


「んぁ?」


 俺は拳を握りしめて怒りの言葉を呟く。


「せっかく、平和な世の中で戦闘がない未来へと変わったと思ったのに……」


「なにをぶつぶつ言ってんだ? 絶望で頭がおかしくなったか? 安心しろ。すぐに楽にしてやる」


「これ! 序盤のチュートリアル戦闘じゃねぇかよおおおおおお!!!!」


 ブレイブアンドレアの世界では、戦闘になると装備していた武器が勝手に出て来る仕様となっている。


 フィリップの初期装備はロングソードだ。


「おらあああああ!! 魔法!(物理)」


「あぎゃああああ!」


 山賊のお頭を頭から叩き斬ってやる。


 返り血を浴びて、他の仲間達に視線をやる。


「お頭ああああああ!!」


「てめぇ!! よくもお頭を!!」


「許さねぇぞ」


「許さねぇのはこっちじゃボケェ!! せっかく戦闘がないって喜んでいたのに、チュートリアル戦闘を仕掛けてくんなああああああ!!!!!!」


 一気に間合いを詰めてやる。


「魔法!!(物理)」


「あぎゃ!!」


「魔法!!!(物理)」


「いぎゃ!!!」


「ひ、ひぃ……! ば、化け物……」


「化け物……? 違う……俺は魔法使いだ! まほーーーーーーー!!!!!!(ぶつり)」


「うぎゃーーーーーー!!!!!!」


「世界よ! 俺は勇者じゃない! 魔法使いだああああああ!!」


 自分が魔法使いと名乗ることで少しでも未来を変えたい悪あがきの叫びを上げる。


「ご主人様、落ち着いてください。魔法使いゴリラになっていますよ」


「うほおおおおおおーーー!!!!!!」


「勘違いしないでください。ゴリラなご主人様も好きなんですからね♡」


 ツッコミがいない現場ってカオスと化すよね。

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