『未開文明共鳴管理局』
未開文明圏の監視惑星の1つで、原子爆弾の使用が確認され空間に僅かな歪みが発生した。数カ月後、空間の歪みを調整していた時空管理局から我々未開文明共鳴管理局に連絡があった。
複数の文明種が観測装置や人工共鳴体を、周辺エリアに設置し始めているという連絡だ。大多数は観測目的だが、その中には、非常に危険な種族も含まれていたため、その未開文明惑星、太陽系地球の調査に若い隊員が数名送られた。
未開文明共鳴管理局が監督する共鳴体には、自然共鳴体と人工共鳴体がある。全ての自然生物は時空間を超えて様々なものとゆらぎを持った不定期の共鳴を行っているが、未開文明共鳴管理局が管理しているのは、
1.自らの意思で生体能力あるいは人工物を使い、意図的に特定の共鳴体に、接続をする未開文明圏の準知的生命体。
2.自然界の中でも惑星の長期的な進化方向性に影響を与える特定の植物、動物、鉱石、菌類、液体などの長期的観測。
3.2の特性を理解し、体系的な知識が無くとも効果の強い自然共鳴体を、勘で使い自らの進化と環境適合を特異な状態に置く未開文明人と特定集団を長期的観測。
4.文明種が1.の準知的生命体の共鳴儀式や、3の未開文明人の共鳴儀式を利用して、干渉を行うために用意した偽装共鳴干渉体の解析と長期的観測。
(ここが最も重要な仕事でもある)
以上4つが主な仕事である。
太陽系に共鳴体監視機能を持った宇宙船を送り込んだ我々は、危険な種族が地球の共鳴知識を独占していた神官団に干渉して、地球人類の各民族が本来自然共鳴していた彼らの母なる地球やそれぞれの自然共鳴体から切り離すために、人工電波を利用していることを突き止めた。
この未開文明圏の人類に積極的に干渉しているのは悪名高いが常に歴史的失敗を繰り返し、決して中央権力に入れない例の者たちだった。…ここではXと呼ぶことにする。彼らXは人類が信仰する神や悪魔になりすまし、王や神官の一部が人工共鳴体に共鳴する様に仕込んでいた。
それにしても、この地球は文明が何度か繰り返された失敗と再起動の痕跡があり、隕石に似せた人工共鳴体がいたるところにある。
ある場所では隕鉄から刀が作られ、ある場所では鏡が作られ、ある場所では隕石共鳴体そのものが信仰の対象になっていた。我々は地球及び周辺地域の全ての人工共鳴体を割り出した。地球内部はもちろん、月や火星、木星や土星、太陽やシリウス、彗星や周回する隕石の中にも見られた。
人工共鳴体の数十倍の地球監視システムや他文明の同業者の船も見つけた。この過剰な監視体制が、これまで人類に過剰干渉していた古参者の神経をノイローゼにしているという噂も聞いた。
この惑星地球では、先程も述べたように共鳴知識を神官団が表面上独占していたが、無意識にこの技術を使用している個体も多く、むしろ無名な芸術家の中に強い共鳴能力を示すものが多数いたのが興味深い。
21世紀に入り、電波通信が広がるにつれて、これら共鳴能力が高い者は芸術的才能を失い始めているように見えた。また、地球の王族と神官団は強力な自然共鳴能力を持っている者を積極的に監視して、反抗的な個体は電波や様々な粒子を放射し拷問して、その共鳴能力を封じていた。
我々、未開文明共鳴管理局は地球の上層部の集合知性体のルーツを調べ、各時代ごとに自然共鳴していたエリアを解析し終え、侵略種が人工共鳴体を送り込んだ時期を特定した。これら、種の上層部の集合意識に共鳴する人工共鳴体はその種族の進化や環境適合に大きな影響を与えるため、完全な未開文明保護条約違反だった。
我々は主に(我々から見れば下等種である)Xが設置した人工共鳴体をすべて回収し、よく似た別の人工体を地球時間で11ヶ月設置することにした。これは、人類の上層部がこの神や悪魔に偽装した人工共鳴体に何を望んでいたかより詳細に観測するためである。11ヶ月後に、自動消滅する設定にした。
設置から僅か数日で、人類の王と神官たちは神や悪魔に偽装したXの人工共鳴体に人類を売る代わりに神々の仲間入りを望んでいたことが分かった。人類を本来の共鳴場から切り離し、ロボットに改造して人工場に接続するのも、長いXの干渉から学んだ知識の様だった。それにしても、何と容易く騙される王を持った哀れな種族なのだろう。これでは、未開文明圏の準知的生命という評価から抜け出すのに、長い時間を有するだろう。
人類の中には騙された王や神官たちを、悪魔の様に罵るものもいた。だが、我々から見ると、我々から見れば下等種に過ぎないXに数千年にわたり利用されていた哀れな道化たちだった。
広い宇宙にも、残念ながら中央権力とその外がある。我々は中央から派遣されたが、上には上がいる。人工共鳴体の大半の解析が終わり、危険なものは破壊したが、上位文明圏の人工共鳴体は解析不能であり、回収さえ出来なかった。
地球各地や地球内部の、Xを主にする危険種族の人工共鳴体をほとんど無効化した。中には善良種族のお守りの様な共鳴体もあり、これには手は出さなかった。さて、我々の仕事は終わった。
本部に帰還する前に、我々は人類の王たちが監視している強い共鳴能力を持つ個体を通してメッセージを送った。その中には。我々のよく知っている個体もいた。彼らはそのメッセージの意図を理解しながら、まるで乳離れが出来ない赤子の様に、再びXの共鳴体と接続する試みをやめなかった。その先にあるのは11ヶ月後に消える、我々が設置した観測共鳴体だと知ることもなく…。
帰還の途中、人類の王たちは大きな戦争を始めた。古い戦争とは異なり、人類に過干渉を行ってきた古参の影響力は削がれていることも知らず。だが、我々の意識はすでに休暇と家族との時間に向けられていた。
我々の仕事は終わり、人類の戦争と戦後を監視するために別の機関が太陽系に派遣された。餅は餅屋、あとは彼らに任せるとしよう。
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