第25話 話題沸騰



「ほぇ……凄い事になってるなぁ」


 一夜明けて……ニュースもSNSも掲示板も。

 未知の魔物と俺の姿が大々的に報じられている。特にデーモンスレイヤーとは何者なのか!? と言う特番がずっと組まれていた。


 その場のノリで考えた名前なのに、著名人や有名人が真面目な顔をして考察や議論するのは止めて欲しい。


「この番組にもハクア様が出てるね! 有名人だ!」


「……ゴメン、チャンネル変えていい?」


「えぇ!? なんでよぉ!」


 俺の頭の上に乗ったウィンが不服そうに跳ねる。いや、流石にここまで誰も彼もがデーモンスレイヤーと言われるとね、恥ずかしいから。マジで。


「でも私としては、ハクア様はもっと称賛されても良いと思います!」


 隣で俺の衣服を丁寧に畳んでいるフィオナは、納得してない様子で言う。


「別にこれでいいよ。勇者としての役目を果たしだけだ。報酬はいらない」


「ハクア様は無欲すぎますよ!」


 ポン! と畳み終わった衣類を床に置く。


「貰う時はキッチリ貰ってるさ。今回は理由はどうあれ、Bランクダンジョンに無断で入ったんだ。褒められる事じゃない」


「それは……そうですが」


「必要以上に欲をかいたら痛い目を見る。そこまでがっつかなくても、チャンネルの方も伸びてきてるよ」


 今はデーモンスレイヤーの話題にかき消されてしまっているが、フィオナの活躍や最速でEランクで昇格した事で注目を呼び込み、チャンネル登録者は鰻登り。一気に10万人を超えた。


 ここまで来ると、もうプロディーヴァーと呼べるレベルらしい。つまりダンジョン配信だけで食っていける領域だ。この前の配信も投げコメだけで軽く十万は超えている。


 現時点で目標だった安定的な収入を得たも同然だが、それは俺の配信を楽しんでくれる人たちのお陰だ。

 更に上を目指す目指さないは別にしても、前へ進む努力は怠らないようにしたい。


「……そういう所が私も含めて、皆さんがハクア様に惹かれた理由なんですよね。金は人を狂わせますが、ハクア様は自分を失わなかった。その志、私も見習わなくては」


 うーん……言うほどお金にストイックじゃないと思うけどな。金欠時代は、自販機のつり銭口に手を突っ込んだり、自販機の下を覗いたりしたし。


「それで、次の配信は泊まり込みでやる予定なんだけど……一人で本当に大丈夫か?」


 次はEランクダンジョンとなるが、既に目星は付けてある。栃木県のある小さな町には三つのダンジョンが存在する珍しい構造になっていた。配信映えしそうなので、近場の宿に予約を入れてある。


「はい。私はこの足を調べないといけませんから。ハクア様は遠慮なく配信してください!」


 デン、と置かれたレッサーデーモンの両足。頭があれば脳味噌を直接イジくるのだが、消し飛ばしてしまったので残り香から記憶を覗き見る事になる。

 俺も似たような事が出来るが、聖女は専用のスキルだ。その精度、正確さには勝てない。


「何かあれば、すぐに連絡します。ハクア様の配信風景も見ますので、気になった部分はメッセージで伝えますね」


「……分かった。留守中は誰が来ても無視して良いからな。ヤバいと思ったら即呼んでくれ」


「もう、私は子供じゃないんですよ?」


 フィオナが後れを取るとは思えないし、自宅のセキュリティは万全だ。でも俺の事を付けようとした連中や大魔王の事がある。用心するに越した事はない。


「でも、そんなに心配してくださるなんて……私は感激です。未来の妻として、こんなにうれしい事はございません! やはりハクア様は生涯の伴侶です、今すぐこの契約書にサインを」


 突き出した用紙を受け取る。どうやら魔法的な束縛性を持つ魔法の用紙のようだが……フィオナの筆跡でしっかりと婚姻届けと書かれていた。


「あーあーあ、どうしてそうやって人の心配を萎えさせる事を言うのかなぁ!? てか、何のつもりだこの契約書は!」


「それはチキュウの決まり事を調べて閃いたものです! 婚姻届けの代わりですね! 私も配信者で稼いでハクア様のウェディング衣装を購入します。アースシアの一番大きな教会で挙式を」


「これ以上、お父様の胃痛の原因を増やすのは止めるんだ」


 しかも何で俺がドレス着る側なんだよ。百歩譲って結婚するにしてもタキシードを着る側だろうが!


「もしかして恥ずかしいのですか? 大丈夫ですよ、私もドレスを着ますから。お揃いなら恥ずかしくないでしょう?」


「本音は?」


「ハクア様のウェディング姿を合法的に見れる上に結婚出来るからです」


「この紙キレ、絶縁届に変えてやろうか?」


 拝啓、フィオナのお父様へ。

 あなたの娘さんは、閉じ籠っていた殻から飛び出しました。

 でも、もう手に負えません。何とかしてくれ!!


「新郎のご都合により、この婚約は破棄となりました」


「そんなぁ……私は悪役令嬢じゃないんですよぉ」


 大袈裟にヨヨヨと泣き崩れるフィオナを尻目に、俺は用紙で紙飛行機を作り、廊下へ投げ飛ばす。

 どうやら俺の本棚に入っていたネット小説が原作のラノベを読んだらしい。


 タダでさえ面倒なのに、最近余計な知識を付けてきた原因の大半はそれか。


「頼むから、家で大人しくしててくれよ」


「はい……でも、ハクア様の本を読むくらいは良いですよね? 私、チキュウの書籍にも興味があるんです」


「……本棚に入ってる奴なら良いけど」


 本を読むな。私物に一切触れるなと命令するのは酷だろう。整理整頓や掃除をやってくれたのもフィオナだ。一休みの娯楽は大事――


「これとかはどうでしょうか!」


 フィオナが道具倉アイテムベイから取り出したのは、俺が密かに買っていた好きな絵師さんの薄い本。フィオナに似た少女が表紙に描かれ、叡智なポーズを取っていた。


「た、の、む、か、ら、大人しくしてろよ?」


「は、はぃぃぃ……」


 フィオナのこめかみをグリグリしながら、もう一度言い聞かせる。


 留守を任せるのが凄まじく心配になってきたぞ……

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