異世界バット

イグチユウ

00プロローグ

 ――俺のせいで負けてしまった。まだまだ努力が足りない。

 俺は近所の公園で素振りをしていた。時間はすでに22時を過ぎている。

 一週間前、甲子園への出場を決める地方大会の決勝。

 最終回、九回の裏、ツーアウト満塁の場面で俺に打席が回ってきた。得点は1点差。逆転のチャンスだ。

 そこで俺はしくじってしまった。打ち損じた打球がライトに飛んでいき外野フライでアウト。それで今年の夏の大会は幕を閉じた。

 ――驕っていた。自分の才能を過信していた。

 小学生の頃から体格がよく、何度も大会でチームを優勝に導いてきた。

 周りから注目され、将来は凄いプロ野球選手になると言われてきた。俺も自分の才能を信じて疑わなかったし、その才能を伸ばす努力を惜しまなかった。


 ――最後の打席に限った話だけじゃない。あの日俺はずっと力んだままだった。


 あの日、俺は一本もヒットを打てなかった。肩に力が入っていて、全く普段どおりにいかなかった。甲子園出場という夢が目前となったことで、緊張してしまっていた。

 一年生ながらに期待され、認められ、レギュラーになることができた。

 それなのに活躍できずに、三年生の甲子園出場の最後のチャンスを潰してしまった。先輩たちは涙を流す俺にお前のせいじゃないと慰めてくれが、俺は自分自身を許すことができない。こんな不甲斐ないままでは、来年も甲子園出場なんて不可能だ。

 

 雨が降り始めた。


 体に水滴が触れる。次第に雨の勢いが強くなってくる。

 少し遠くからゴロゴロと雷鳴が聞こえる。


 ――体が冷えるといけない。きりよくあと十回で終わりにしよう。


 そう思った瞬間、衝撃と共に世界が光に包まれた。

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