第7話: 星の石はどこに?

「それじゃ探しに行こうか。さっきのコンパスの方向からするとあっちの方かなあ。心当たりある?」

 職員室から出た僕とステラは、星石コンパスが示した方向をたよりに星の石探しをスタートすることにした。トラウムにはコンパスが光ったってことは、少なくともこの近く、おそらくすい星学園内にあるらしいと聞いていた。だったら、探すところも限られるし意外に早く見つかるのかもしれない。

「そうですね。この学園はそれなりに広いので、普通に探すと骨が折れますね。簡単には特定できないでしょう。せめて、どの階にあるかがわかればまだ違うのですが」

 ステラが考え込む。それが痛いところだった。方向を示す石は光ったけど、高さを示す真ん中の白い石が光らなかったから、上にあるのか下にあるのかがわからない。

「学校の場所だけでも二階分、建物全体を入れれば上に十階分の高さがありますからね」

 確かにそれは大変そうだ。

「他の人に助けてもらうわけにはいかないの?」

「こんな大問題、他の人に伝えようものならパニックになってしまいます。それに……」

「それに?」

「星の石が無くなった原因が、盗まれたのだとしたら、犯人に探していると教えることになってしまいます」

 そっか! 星の石が消えたって言われたから、魔法みたいに溶けて無くなったのを想像してたけど、普通に盗まれたって可能性もあるのか。それじゃあ、人に言うのは難しい。

「なので、大変ですが、私たちだけで探すしかないですね。可能性のありそうなところを探すことにしましょう。星の石は大きな石です。隠せそうなところは限られるはずです」

「そうだね。近づいたらまたコンパスが光るみたいだし」

「方角的には、図書室と資料室がまずは怪しいでしょうか。人も入るところではありますが、隠すにはちょうどいい場所です」

「オッケー、じゃあ行ってみようか」


 ステラの案内で、まずは資料室にやってきた。

 資料室は二階の奥で、学園の建物正面から見たら右側に当たる部分だった。

 職員室からは少し歩いたけど、ステラと歩いているといろんな生徒たちから遠巻きに歓声が上がる。普通に学園に通ってはいるけど、やっぱりお姫様は人気みたいだ。

 一応、転校生に学園内を紹介するという理由があるから、二人でうろうろしていても星の石探しをしていることは怪しまれなくてすむ。

 資料室に入ると、中には授業で使うのだろういろんな本や、模型や、何に使うのかわからない機械がたくさん置いてあった。

「さて、手がかりもありませんが探してみることにしましょう。星の石はいろんな色に光り輝く石です。入りそうな場所や箱に気をつけてください」

 そういうステラの言葉で、僕らは星の石探索を始めた。

「それにしても、ステラって本当にお姫様なんだね」

 星の石を探しながら声をかけてみる。あちらこちらに箱があって、開けて確認するだけでも結構時間がかかりそうだった。

「どういうことですか?」

「いや、そんなにえらい人が学校に通ってるのがちょっと不思議でさ。なんか特別な場所とか先生がいるとかイメージしてたから」

 僕の学校に、こんなきれいで目立つ子が来たら大騒ぎ間違い無しだ。

「星太の星ではそうなのですか? ここでは学園に通うことは、代々の星の姫に与えられた使命の一つです。トラウムが決めたようですが、星の姫は他の生徒と交わり、民のことを知り、また民に知らせるべし。そう言い伝えられています」

「そんなものなんだね」

 お姫様にもいろいろあるんだなあと思っていたら、ステラが僕の方をじっと見ていた。

「どうしたの?」

「……いえ、たいしたことではありませんが、星太の星、青い星はどのような星なのか聞いてみたいと思いまして。あちらから人がくるのは初めてですから」

 ステラは僕の星にきょうみがあるみたいだった。

「といっても、何から話したらいいかなあ」

「……そうですね。私も何から聞いたらいいかわかりませんが。星太さんの星はなぜ青いのでしょうか? 私たちの星の大地は土の色ですが。そちらでは土が青いのでしょうか」

「土はこっちと同じかな。青いのは、えっと、海があるからかな」

「海とは?」

「とっても、おおきな水たまりみたいなものかな、星の表面のほとんどが海。水が光をはね返すときに青く見えるんだって」

「あの大きな星がほとんど水なのですか!?」

 ステラが驚いている。こんなに感情を出すステラを初めて見たかもしれない。

「うん、そうだよ。海を見に行くとどこまでも続く水平線があって、向こう側に別の世界がありそうな気がしてくるんだ」

「すごいですね。この星には、小さな池や湖くらいしかありません。向こう側が見えないとはなんて壮大なのでしょう。私も見てみたいものです」

 そう言ったステラの顔は、はじめて僕と同じ年の子に感じられた。


 星の石を探している間、お互いの星についていろいろと話し合った。ステラは思った以上に僕の星のことが知りたかったようで、これまでがうそのようにあれこれ聞かれた。

 たとえば、いろんな自然の景色のこと。夕焼けみたいに空の色が変わることや、雨の後には虹がでることにすごく驚いていた。すい星トラウムでは空はドームで覆われていて、空の色はずっといっしょで変わらないらしい。天気の変化もほとんど無いみたいだった。

 たとえば、生きもののこと。僕らが当たり前にみる鳥もここにはいないらしい。空を飛ぶ生きものがいるなんて信じられないって顔をしていた。

 意外だったのは食べ物のこと。ハンバーグやオムライス、ラーメンみたいなものはここにもあるらしい。お菓子の種類は全然違っていて、食べてみたいと言い合っていた。

 なんだか、学校で友達と話をしているようで少しうれしくなったし、ステラの顔も僕らと同じこどものようなわくわく顔に思えた。なんだ、お姫様なんていってもあんがい普通の女の子じゃないか。そう思っていた。


 結局すみからすみまで探したけれど、資料室では星の石は見つからなかった。

「ここには無いとは思っていました。あったらとっくの昔に騒ぎになっているでしょう」

 なら、最初に言ってほしかったなあと僕は思った。

 気づけば辺りは暗くなっていた。どうやらこの星の夜が来たらしい。

 僕らは、また学園の正門まで戻った。ステラはエレベーターの前までくると、

「それでは今日はおつかれさまでした。私はもう遅いので帰るとします」

 そういってなにごともなかったように去っていく。

 なんだか、あんなにいっしょにがんばったのに、セリフと態度があっけなくて、少しだけさみしく感じていたらステラが立ち止まった。

「……まあ、その、今日はこの星のためにありがとうございました。最初はいやな態度をとってしまったかもしれませんが、明日からもよろしくお願いしますね」

 そんなことを言ってくれた。僕はうれしくなった。

「もちろん! 絶対にこの星を救おうね!」

「ええ、もちろんです。あなたの力も頼りにしています。それと……」

「それと?」

「さっきの星太さんの星のお話、楽しかったです。よかったら明日も」

 そういうなり、足早にステラはエレベーターに乗って帰っていった。

 それが僕にはなんとなく、照れ隠しのように思えてニヤニヤしてしまった。

 なによりも、明日の約束ができたことによろこんでいる自分がいた。


 ……明日? あれ?

「そういえば、僕はこれからどうすればいいの?」

 帰れないし、ここで泊まる場所もないし!

 頭を抱えていたら、後ろからねらいすましたようにトラウムがやってきた。

「やあ、今日はがんばりましたね。明日からもよろしくお願いします。それで、ステラとは仲良くなれましたか」

「あ、うん。結構いろんなこと話せて楽しかった。話しやすくていい子だった」

「でしょう。ステラはとてもやさしくて真面目な子ですから」

「そうかもね……ってそうじゃなくて! 僕は今日これからどうしたらいいのさ!」

「ああ、言ってませんでしたね」

 そういうなりトラウムはなにやら小さくつぶやいた。呪文のようだった。

 それと同時に輝く門があらわれる。星鏡の扉だ。

「星太さんは、今日は帰ってくださってかまいません。青い星側の時間は変わっていないはずですよ。明日の夜、夢の中でまたお迎えに上がります」

「あ、そういうことになるんだ。よかった、野宿かと思ったよ」

「ははは、すみません」

 なんてトラウムはのんきなことを言う。本気で不安だったんだからな。

「では、明日また」

「うん、明日も頑張るよ」そういって僕は星鏡の扉をくぐった。

 

 まぶしい光が収まると、そこは見慣れた自分の部屋だった。

 窓から空を見上げると、すい星が尾を引いて空に輝いていた。

「さっきまであそこにいたなんて信じられないなあ……」

 さあ、今日は寝よう。明日もすい星の危機を救わなきゃ!

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