第3話.疑問

 俺は落とし穴から脱出できた。

 とりあえず、リリースには異常に力があることが分かった。

 

 俺の手は無事だった。が、リリースの手に異変が起きたらしい。


「手がどうしたの?」

「赤らんだ」

 リリースが俺に手を見せた。

 リリースの手は赤らんでいた。


 ……力を入れたからだよね?

 力を入れたら当然、手は赤らむよ。


「普通でしょ」

「今までこんな状態になったことないよ」


 リリースはこれまでの人生で重量があるものを持ち上げたことがないのか?


「でも、気にする必要はないよ」

「気になるよ」

「それでも、気にする必要はないんだよ」

「気になる……」

「そうだとしても、気にする必要はないんだよ」

「気になる……」


 話が一生続きそうだ。


――――


 なぜ、俺は周りが草原しかない場所にいるんだ?

 まぁ、トラックに轢かれて死亡し、異世界か昔の世界に転生した。という可能性が高いが……これは一旦、棚に上げよう。


 なぜ、俺はリリースの家に行こうとしているんだ。

 衣食住がどうとかこうとか……という話だが、それ以前の問題があるよな。

 通常、見知らぬ人を泊めるような行為はしない。しかし、リリースは

「泊まってくれるの! 嬉しいよ! ……嬉しいから棚にある私のパンツ見せたげる」

 と、言うんだ。

 ……俺の妄想が混合しているな。

 ま、まぁ、この展開も無きにしも非ずだし、妄想してもいいよな?


 話が逸れたが、とりあえず、俺には理解し難いような反応をリリースはした。

 ここが異世界なら、俺のいた世界とは常識が異なるため泊める可能性もあるが……でも、喜ぶような反応はしないだろう。

 ……これも棚に上げよう。

 とりあえず、俺は家事全般ができないため、

「雑用しないなら泊めねぇぞ」

 と言われないことを望む。

 この言葉を言われたら俺はこの世界で生き抜けない。


 ……この世界で生き抜く必要なんてあるのか?

 俺はこの世界に用はないからな……

 しかし、用がないからといってこの世界から抜け出す方法も知らない。

 とりあえず、この世界での生活を頑張ってみるか。

 この世界でも桜の夢は叶えられるかもしれない。いや、絶対に叶えられる。

 そう信じよう。


――――


「この世界に大学はある?」

「急にどうしたの?」


 俺はふと疑問に思ったことを聞いた。


「この世界に大学が無いのかなと……」

「さっきと言っていることが同じだけど」

 

 同級生が誰も話してくれなかったからコミュ障なんです。許してください。

 ……俺が超絶イケメンだとしても、何か話題を振るぐらいはしてくれよ!

 自分から話に行け?

 そんな能力が俺にはない。


「それで、大学はあるの?」

「剣術大学と魔術大学はあるよ」


 剣術大学と魔術大学……なにそれ? おいしいの?

 とりあえず、異世界のような大学しか無いらしい。って、ここは異世界なのか。

 剣術大学も魔術大学も昔の世界にあるとは思えないしな……

 とりあえず、昔の世界に転生したという選択肢は消去された。

 ということは、残りの選択肢は異世界のみ。

 俺が現在いる世界は異世界で確定だ。


 異世界か……楽しそうだな。 

  

――――


 なぜ、俺はリリースと普通に話せるのだろうか。

 俺は初対面の相手には

「あ、そ、そうですね」

 という感じが一ヶ月ほど続く。

 その後

「そうだね。やっぱり可愛いよ」 

 と、通常通りになる。

 ふっ、通常通りの俺は超絶イケメンだぜ。


 リリースと普通に話せるのは、何となく雰囲気が合ったからだろう。

 適当な理由だが、これ以上理由が思いつかないのでこれでいい。


――――

 

「何で草原で散歩してるの?」

「周りが草原だから」

「家の周りは草原じゃないでしょ」

「草原だよ」


 草原の中に家を建築したのか……


「それって不便じゃないの」

「超不便だよ」


 不便なら引っ越せばいいのに。


「何でそんな場所に居住してるの」

「色々と思い出があるからさ」


 まぁ、長く居住した家には愛着があるもんね。

 出ていくには大きな決断が必要。だが、不便なら引っ越すべき。

 引っ越した後は新居のことで頭がいっぱいになるので、後悔することはない。


「不便なら引っ越した方がいいような……」

「まぁ、他にも理由があったりするから……」

 リリースは暗い表情をした。


「他の理由って?」

「サトルには関係ないから」


 気になるが……そっとしておこう。


――――


「池まで三時間ということは、隣家までは何時間なの?」

「多分、30時間じゃないかな」


 草原のど真ん中に家を建設したんだな。

 草原の中にあるポツンと一軒家か。

 異世界にテレビがあるのなら、取材が絶対に来る。


「そういえば、水道とか電気は通ってるの?」

「もちろん通ってないよ」


 通っていない……生き抜くのは無理ゲーじゃない?


「水道はどうしてるの?」

「池まで水汲みに」

「三時間の?」

「そう」


 水を獲得するのに三時間?

 生活が過酷すぎるよ。


「お風呂は大量の水を使うけど、それも池で?」

「お風呂は地下から汲んだ水を使ってる」

「なら、池に行く必要はないような……」

「地下から汲んだ水は土で濁ってるから、お風呂にしか使えない」


 お風呂にも使用できない気がするが……水が貴重な資源だから仕方ないか。

 でも、濁った水で体を流すのは拒否感が……

 お客様なので特別にお風呂も普通の水でよいですよ〜、となったり……ただで泊めてもらうのだからあり得ないか。

 お風呂の際は目をつぶろう。

 そしたら普通の水が注がれているように感じるはず。


「電気はどうしてるの?」

「電気無し生活をしている」


 電気無しでどうやって生活をしているの?

 電気が無いって、すなわちゲームが出来ない……

 学校から帰るときには夜だから、暗くて勉強も出来ない……

 って、異世界だからゲームも学校もないか。

 剣術大学? 魔術大学? 俺は知らない。


「夜とか行動できなくない?」

「だから暗くなったら寝て、少しでも明るい時間に起きるの」


 異世界での生活は大変そうだな。

 ……異世界ではなく、広大な草原での生活が大変なのか。

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