【短編】偽りの美少女は乙女同士の夢を見る【現代/ラブコメ】
桜野うさ
第1話 プロローグ:マドンナの素顔に触れるまで
腰まで伸びた豊かな黒髪には光沢があって、いわゆる天使の輪ができている。
ほっそりとした白い顎にふっくらとした頬と唇、うるんだ瞳を持つ可愛らしい女の子だ。
顔の造形がいいだけじゃない。
例えば笑う時に口元に手を当てるとか、しゃがむ時にプリーツスカートの太腿辺りを押さえるとか、仕草のひとつひとつが上品だった。
血肉までもが美少女なんだろう。
化粧で見てくればかり取り繕っているその辺の女の子とは格が違う。
クラスの――いや、高校中の、或いはそれ以上の広範囲においての――男はみんな彼女が好きに違いなかった。
もちろん俺も彼女に惑わされたひとりだったけれど、明らかに釣り合わないので遠巻きに見ているだけだ。
学校のカースト上位だとか、他校のイケメンだとか、金を持っている大学生だとか、そういう男達が挑んでは全敗している様を眺めていると、とても声をかけようという気にはなれなかった。
――あの時までは。
今、俺は狩野さんの自室に来ている。
彼女と二人っきりというシチュエーションが嬉しい反面、既に逃げ出したくなっている。
彼女は俺を自分のベッドに座らせると、少しだけ足を開かせた。
そうして俺の足元にしゃがんでスマートフォンを構えている。
「うーん、もうちょっとインパクトが欲しいなぁ」
ひとり言の後、こんなことを言った。
「スカートをめくってくれない? 下着が見えるギリギリまででいいわ」
かなり際どい指示なのに妙に遠慮がちな言い方をしてくる。
そんなの無理だ。
だってそんなことをしたら……バレる。
「……駄目?」
無理なのに、こんなにも可愛く上目づかいで頼まれると断れない。
指示通りにスカートをめくる俺のことを、狩野さんは欲望にぎらついた瞳で注視した。
彼女はいつも美少女をこんな視線で見ているのか
俺は自分がどんな目で彼女を見ているのか知らない。
恐らく餌を期待する犬だか猫だか或いは金魚だかの眼差しをしている。
そんなこともきっと知らずに、彼女は細長い指でカメラアプリの撮影ボタンを押した。
「美少女」を閉じ込めるて自分のものにするために。
こんな状況になった経緯を順番に話そう。
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