第2章 ドラゴンスレイヤー編
第41話 ……は?
「またお越しくださり、ありがとうございます、大将軍様。本当はわたくしの方から出向きたいのですが、魔王となったからにはそうもいかず……」
俺は忌々しい魔王城に、再び呼び出されていた。
ここは、玉座の間ではなく魔王ルーナの私室である。
白髪をツインテールにまとめ、褐色の肌を多く露出させる薄い衣装は、姫という立場の時から変わらない。
身体の凹凸がはっきりと出ており、フラウのそれよりも豊かなものを見るのは目の保養になるのだが……俺を四天王から退職させず、むしろ昇進させやがったこいつには、憎しみが強い。
責任から解放されたいって言っているのに、責任を増やされたら堪ったものではない。
【……私を大将軍と呼ぶな】
そんな忌々しい名前で呼ばれると、そのたびに嫌な気持ちになるわ。
「気をつけろ、魔王。私は四六時中大将軍と呼び続けていたら、殺すぞと言われた。久々に殺気を向けられて粗相をした」
そういうのは、俺の副官から四天王へと大出世を果たしたフラウである。
女騎士らしい鎧に、金色の輝く長い髪。
金銀のオッドアイは宝石のように美しく、見た目も整っているのだが……中身がね……。
中身がドブだからね……。
ちなみに、人間だ。
人間が魔王軍四天王って、どういうことですかね……。
人類の裏切り者として、真っ先に命を狙われそう。
めっちゃ面白いじゃん。
というか、そもそもなんで胸を張って言えるの?
普通、包み隠そうとするようなことだよね? ドMなの?
「では、今までと同じように暗黒騎士様と」
……まあ、大将軍と呼ばなければ何でもいいや。
【私を呼んだ理由はなんだ】
用件はまだ伝えられていない。
呼び出すときに伝えろよ。やばそうだったら理由つけて行かないで済むのに……。
見たところ、メビウスもいるようだが……。
オットーとトニオがいないので、四天王全員集合というわけでもなく、それほど重たい話でもないはずだ。
「お願いしたいことがございまして……」
断る。
無条件でお願い事は却下である。
「任せてくれ。暗黒騎士なら、すべての依頼を完璧にこなしてみせるぞ」
にやりと笑いながら、俺のことなのに返事するフラウ。ぶっ飛ばすぞ。
とりあえず、俺が不幸になればそれでいいと思っているのだろうが、俺がそれをこなして得たものは全部お前に押し付けるからな。覚悟しろ。
マジで逃げられなくなって、背負いきれないほどのものをパスしてやる。
「現在、わたくしが最優先で取り組んでいるのが、魔都の再建。それと、帝国との交渉ですわ」
ルーナは無表情のまま、淡々と説明を始める。
前者は分かるが……帝国との交渉?
民間での交流はあるが、国家間の交流はないはずだ。
大規模な戦争こそしていないものの、仮想敵国であることは間違いないし。
「本来、あのように敵国に潜入させる者は、どこに所属しているか証拠を持たせないものなのですが……あからさまに帝国人だと知らしめるように軍服を着ていたので、最初は罠かと思いましたわ」
ルーナが言っているのは、以前の魔都騒乱事件のことだろう。
帝国軍が魔都に侵入し、大規模なテロ活動を行ったのである。
そのおかげで、魔都の一部が損壊し、経済的にも大きなダメージを被ったのである。
あー……帝国に罪を着せるために、軍服だけ着用したみたいな?
確かに、普通に考えたらそんな分かりやすいものを身につけさせて魔都に来るのはおかしいよな。
人類と魔族……この二つしか存在しないのであればまだしも、人類は複数の国家に分かれているのだから。
ルーナもそれを危惧したのだろうが……。
「ですが、交渉の過程でどうにも本当に帝国人だったようで……。主流派と天爛派に分かれて骨肉の争いをしていたわたくし共が言えることはありませんが、人間も大変なようですわね」
交渉の過程……?
「交渉をしている相手側は、謝罪と賠償金を渡してきましたわ。全面戦争を望まない派閥が交渉担当のようですわね。宣戦布告されれば迎撃しますが、わたくし共もダメージがないというわけではないので、賠償などを受け取った時点で報復するつもりはありませんわ」
当たり前だろ。
別にやってもいいけど、俺は絶対に前線にはいかないからな。
しかし、交渉の時点で謝罪と賠償をしてきたということは、自分たちが関与していたことを公に認めたということになる。
なにしてんだ?
俺だったら絶対に認めないわ。意地汚く、最後まで足掻く。
「その際に、情報も渡してきましたわ。帝国軍の一部が暴走し、魔族領に侵攻する可能性があると。……本当、一枚岩ではないですわね」
交渉で味方売ったの?
どういうことなの……?
味方を売るのはダメだろ。常識的に考えて……。
まあ、俺は許されるんだけどね。自分のためだから仕方ないわ。
「確証はありませんし、罠の可能性もありますわ。ですが、何らかの対処をとっていないというのは下策。ですので、少数精鋭をその不穏な動きがある場所に送ろうと思うのですが……暗黒騎士様、適任者はいらっしゃいますか?」
俺が大将軍という魔王軍を統括する存在だから尋ねてきたのだろう。
素晴らしいね。
俺はニッコリと兜の中で笑って、適任者を教えてあげる。
【フラウとメビウス。四天王二人を送っておけば問題ないだろう】
「はっ!?」
ギョッとしたように俺を睨みつけるフラウ。
おいおい。こんな状況で俺がお前を売らないとでも思ったのか?
長い付き合いになってきているというのに、まだ俺を理解できていないようだなぁ。
「ふざけるなぁ! どうして私が最前線に……怖いだろうが!」
子供かな?
【生半可な敵ならば、メビウスで対応できる。彼女で対応できない者は、足止めをしている間に生きることには定評のあるフラウを走らせばいい】
「私を使い走りにするつもりか! しんどいだろうが!」
子供かな?
さっきから断る理由がド直球すぎるのだが。
もうちょっとオブラートに包めよ。
「合理的ですわね」
「感情的にアウトだ!」
ルーナはうるさいヤジにも動じず、少し思案してから頷く。
「では、メビウスとフラウ。この地点に向かってくださいまし。帝国の罠の可能性も高いので、注意を要してください」
やったぜ。
「そんな危険な所に行きたくないぞ! 私はまだ贅沢な生活を送れていない! 暗黒騎士、お前が来い!」
【私は遺憾ながら大将軍だ。そうそう魔都から離れるわけにはいかん。残念だ】
「棒読みだろうが……!」
血走った目でフラウが睨みつけてくるが、どうすることもできまい。
なにせ、魔王様のご命令だからな。
ふはははは! 四天王が魔王に逆らえるはずがないだろうが!
身の程を知れぇ!
「……ねえ」
ん?
歓喜の笑い声をあげていた俺に声をかけてきたのは、先ほどからこの私室にいながらむっつりと黙り込んでいたメビウスであった。
こいつはいつもそんな感じだから、まったく気にしていなかったのだが……。
何だろうか? 面倒くさいから行きたくないとか?
まあ、それならそれでいい。
フラウが単独で行くだけだからな。
そう思っていたのに、メビウスはとんでもないことを言い出した。
「私も、暗黒騎士についてきてほしいんだけど」
……は?
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第2章、開始です。
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