異学文化サークルへようこそ
佐藤佑樹
第一巻
学サー1-1
世界を知った気でいたのはまだ幼かったから。高校までは学校と塾とが世の大きな部分を占めていた。大学に上がりそこにバイト先が加わったし、望めば好きにどこまででも行けるのだということを肌で知った。遅刻さえなければ夜更かししてゲームをしても良い。そもそも単位が足れば出席さえも任意だ。自由を得た。ご飯はいつ摂っても良い。しかし自身の裁量であがないきれない分野があり、そこも含めて世界なのだと
眼前でわななく異形の化け物と対峙しみつきさんは言い放つ。
「少年、ちょっとコンビニ行ってビール買って来い。な、ダッシュ」
みつきさんの胸元は大きくはだけ、これまでの攻防の尋常で無い様を物語っていた。いつだってお洒落なみつきさんの衣服がすでにボロ布となっている。月夜に浮かぶ彼女の肌は白く、柳腰の先の臀部は品良く丸く、僕、新庄雅人はその様をずっと見ていたかった。雑居ビルほどあろう怪龍は顎を大きく開き彼女を威嚇する。
みつきさんが神楽面を装着し吟ずる。
「《
重ねて空間を引っ掻くような音がしたかと思うと、みつきさんの手にどこからか弓矢が現れる。彼女はそれを射る。放たれた矢は光の軌跡を描いて化け物の頭部を貫く。
ひどく歪な形状をした化け物だった。ツチノコを無理矢理と龍に寄せた姿だと表して伝わるだろうか。全体的に青白い色味をしている。脚のような突起が三対生えていた。背にはコウモリの
みつきさんは矢をつがえて一歩ずつ歩み寄る。
僕はスマホを取り出しデリバリーの依頼をした。この場から動きたくは無かった。みつきさんは優しい。たぶん僕を逃してくれようとしたのだろうが、自身はどうなっても良い。顛末を目に焼き付けておきたかった。この時の僕にいやらしい気持ちなどは微塵も無い。みつきさんの抱えた業を僕も知っておきたかっただけなのだ。こんな美人がなぜ満身創痍となりながら立ち向かわなければならぬ。彼女の望む正しい死というものの一端を覗いてみたかった。
「ここで死ぬのは私の人生じゃ無い。あるべき時は自分で決める」
この時のみつきさんの台詞は二年半経った今も耳に焼き付く。
彼女の銀髪はこの暗がりの中にあっても白く映えた。僕とさほど変わらぬ大きさの肢体が、歩を進めるたび膨張している気さえした。この空間を支配しているのはみつきさんだ。腐れた龍などでは無い。
僕は終始
みつきさんは僕の心を掌握してしまった。ああ、この気持ちに名前を付けたくは無い。好意などと陳腐なカテゴライズを下したくも無い。ただ目を逸らすことができなくなっただけなのだ。
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