冒険は闇鍋なもの、ナビなもの!

びば!

一鍋目。プロローグ

 ぐつり。ぐつり。

 ぼこぼこぼこぼこ。


「うん、そろそろいいかな?」


 私は、スプーン一杯のスープを掬った。味見をしてみる。

 今日の味は……案外イケる。


 温度よし。量良し。まあ足りなければ、さっき採ったばかりの果実があるから、多分大丈夫。お皿よし。調味料よし。あとは――。


「ラーユ。用意できたよ」


 私は、樹上に向かって声を張った。すると小リスのような女の子が、転がり落ちてきた。ごろごろと転がって、やがて私の足元で止まった。


「アン姉!」


 うん。その呼び名は、いまだに慣れない。なんだか、背中がかゆくなる恥ずかしさだ。

 さて、ようやくパーティーメンバーが集まったことなので、ご飯にしようか。


 ――そう、恒例の「闇鍋」だ。


「「いただきます」」

 声をそろえて、茶碗の前でひと祈り。なぜやるかは、私にもわからない。たぶん、感謝の心とか、そういう感じだと思っている。


 さあ、今日の闇鍋はどうかな。

 私はもう味見をしているので、対面に座る「ラーユ」の反応を見ることにした。

 まじまじと、スープの中に転がる具材を見つめる彼女。

 うん。見た目はちょっと残念だよね。


 ……ぱくり。

「美味しい!」

「よかった」


 成功である。ルックスはともかく、味がしっかり具に染みている。

 とくに変な食感もなく、匂いはきついけれど案外気にならない。スパイスだと思って飲んでみると、ピリ辛スープのような味わいが楽しめる。


 私も、今度は具をいっぱいにして口に運んだ。

 うん。

 パーフェクト。

 見た目と匂い以外はパーフェクト。


 顔を上げると、「ラーユ」と目が合った。

「ふふ」

「アン姉、甘くて美味しいね!」

「うん。ラーユは、何を入れたの」

「んーとね、ラーユはね。お砂糖!あとは、燃えてる鳥さんの羽!あとはキノコいっぱい!」

「おお、そりゃ出汁が取れているわけだ」

「アン姉は何を入れたの?」


「私はね――」


 ラーユと他愛無い話をしながら、私は心の中で温かな懐かしさを感じていた。


 たしか、最初に出会った時も甘い闇鍋だったっけ。

 今思い返せば、いい思い出だ。

 ……そのころはいろいろ重なって、辛かったけど。




 この世界は、不思議であふれている。

 そんな驚きを見るために、冒険者になりたいと思う人も多い。

 だけど、冒険は危険がつきもの。

 そんなときにお世話になるのが、「ナビゲーター」という存在。

 道に詳しくて。

 危険に敏感で。

 それでいて、とても強い。

 だから、「ナビゲーター」という仕事にあこがれる人は多い。

 かくいう私も、その中の一人。


 けれど、現実は厳しかった。

 私は、立派な「ナビゲーター」にはなれなかった。

 私は、忌み嫌われた。

 うん。

 わかっているよ。

 だって、自分でもわかるもん。


 ――こんなにも匂いがきつくて。縫い痕が醜いんだから。



 私の名前は「アンズ」。

 ナビゲーター業界、唯一の……。



 だ。



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