ディメンション・ジャーニー

bittergrass

1 迷い人の行き先

1-1 迷い人の行き先 1

 何も感じない。鹿島明途は魂だけの状態で、どこかを浮遊していた。魂だけのものに感覚などはないし、心で何かを感じることもなければ、何かを思考することもない。そして、どこかに揺蕩う彼の魂は、そのどこでもない場所からどこかの場所に移動していく。どこを目指しているのかは誰もわからなかった。


 そうして、ふわふわと移動する魂は歪んだ場所を通過しようとしていた。だが、鹿島明途の魂はその歪みを通過することはできなかった。魂が通過しようとした場所に亀裂が入り、そこからその空間の何かが漏れ出てしまっていた。その漏れ出た何かの流れに魂が乗り、一緒にその亀裂から外に出ていく。


 魂が出た先は空だった。青い空に雲が浮かんでいる。だが、その空も雲も少しだけ歪んでいる。鹿島明途の魂の中にあった願いが弾けて、魂の周囲に願いの力が流れていく。その力は魂を包むようにして広がっていき、魂を完全に包む。そして、その力は次に人の形を成形する。それはかつての鹿島明途の体とは少し違った。魂が落ちた世界に適応するように作り変えられているのだ。


 人の形を作ったその力は徐々に骨になり、肉になり、血になる。人の体に必要なものすべてに変化していき、彼の体をより明確にその世界に作り出す。その間にも、その世界の高い場所から落ちていく。


 短めの黒い髪が作られて、瞳は黒く、目は少しだけ鋭いような形に。鼻は多少高いが目立つほどではなく、唇は桜色より少し色素が薄い色へと作られる。耳は丸く、顔の輪郭は丸に近いだろうか。そこから細い首が作られて、人間らしい体が作られていく。まるで、人が風化しているのを逆再生しているような形で彼の体が完全にできると、その次には彼の身を包む服まで一緒に作られていく。白いワイシャツに灰色のベスト、襟がきれいに整えられている。下半身には灰色のスラックスのようなものが形作られて、正面から見た中心に綺麗に畳んだ時の折り目まで成形されていた。靴の前に灰色の靴下が作られて、そして、灰色のスニーカーが出来上がる。そこまでくれば、それが先ほどまで魂だったものだとは思えないほどに人間であった。その状態でありながら、彼は心臓もうごいていなければ、意識もない。魂が入っただけの肉会である。だが、もう地面はすぐそこだった。


 彼の体が地面にぶつかり、彼の体が弾けそうな衝撃が発生していた。彼の落下したいた場所が森の中ではあったが、木々にぶつかることもなく、地面に衝突したせいで、威力の軽減もなく体にその衝撃が伝わってしまった。だが、彼の体は地面をへこませただけで、そこにあった。そして、その衝撃に森の木々が揺らめいている間に、彼の体が一度だけ痙攣した。手足があらぬ方向に曲がりながら、体がびくりと跳ねる。そして、もう一度同じことが起こり、さらにもう一度。もし、それを他の人が見ていたとしたら、不気味でしかないだろう。だが、そうしてようやく、彼の心臓が動き始めて、心臓が動けば、意識が戻り、息を吸うこともできた。


「すぅっ、う、ごほっ、ごほっ」


 彼は体を起こす前に、体を横に倒して、咳をしながら息を吸う。細かく呼吸を繰り返して、ようやく体が落ち着き始めた。


「はぁ、ふぅー」


 彼はようやく、周囲を見渡すくらいには余裕ができていたが、周囲を見ても、全く今の状況が理解できなかった。混乱状態のまま、彼は直前に覚えている記憶を思い出そうとした。そうしてすぐに思い出す。ここに来る前には自身の願いを叶えてくれるということで、ファンタジー世界のような世界に生きてみたいと願ったのだった。その結果が、この状況である。彼の願い通りかどうかはわからないが、始まりとしては面白い状況といえるかもしれない。生れ落ちて、すぐに自由に動かせる体ではあるが、何をしたらいいのか、全くわからない。そもそも、願い通りであれば、この世界は彼が元々生きていた、あの現実とは別の世界であるということだろう。周りは木々ばかりで、何の世界のどこなのかは見当もつかないが、とりあえずは自分が生きていることだけは確認できた。


 彼は立ち上がり、森の中を観察する。鬱蒼とした森というわけではなく、太陽から太陽光が差し込んでいて、森にしては明るい印象を受ける。草木ばかりで他の何かを見つけることはできなかった。生き返ったような気分の彼の心も落ち着いてきて、彼は自身にあった力についても試してみることにした。


まずは魔法。魔法は世界のあらゆるところを満たしている魔気というものを体内に取り込んで、それを放出して魔法とする。魔気は火、水、土、風と四つの属性があり、それぞれに様々な特性がある。そして、魔法は起点、過程、結果と想像することで魔法を発動することができる。彼は掌の上に火が出現して消えるイメージをすると、彼の思い通りに魔法が発動していた。

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