8:  ~Sidestory~遊都&巴3

「やはり」


そう呟いたのよあいつは……巴はリクライニングに身を預け。額に手をあて眼を閉じた。脱力して眼を手で覆う。まるで取り返しのつかないことに気付いたように。


ファイナルテーブル開始4ハンド目だったわ。巴が眼を瞑ったままゆっくりと語る。


「真城つばさが動いた、場に緊張が走ったからよく覚えている。私はすぐに降りた。私では勝てないことがわかっていたから。その時はまさか時間を止めれるとか思わなかったけどね」



【フロップ】

ダイヤの7 ハートの8 ハートの4


【ターン】

クラブのJ


【リバー】

スペードの5



マリアロス・シージエ。考えて欲しいのは彼女のハンド。スーツは覚えていないわJが二つ……ジャックスだった。

真城つばさがダイヤのAと6。


結果はマリアロスのスリーオブアカインドを真城つばさがストレートで破って勝ち。


「何がおかしいんだ? 運のマリアロスを時間停止の真城つばさがねじ伏せた。それだけだろ?」

「運を良くするなら勝つと思わない?」

「それは運を超越する道理を超えたことをつばさがしたからだろう。確かにそのままだったら運を良くするマリアロスが勝つことになっていた。それを時間を止めてトランプを直接入れ替えて結果を操作していた」

「そう……そうね……だったらマリアロスはやはりなんて呟くかしら? 運を良くする能力を破られて動揺するのなら何故? とか、なんで……とかを口走っていたと思うの」

「運を超越するものの存在を知っていた?」

「違うのよ……違うのよ遊都。マリアロスは最初から自分を凌駕するものを知っていた。だから勝負を降りた」


 訴えるように巴が続ける。


「運が強い、弱いじゃないの。前提を覆すことができることを知っていたのよ」


 巴が口を噤み、言葉を選んでまた紡ぎ出す。


「マリアロスはエーテルで出来たトランプがめくられる前から分かっていた。そう考えるしかないのよ。順序が逆なの」


 マリアロスの言葉を思い出す。


「いいですね。流れというものを感じます。流れ流され成るようになる。それこそが世界。そうは思いませんか」

「違う。流れというなら尚更、自ら勝ち取るものだ。それは、大祓に出ているあんたもそう分かっているだろう」

「ええ、ええそうです。その通りです。でもただひとつ私は今まで勝負には負けたことがないんです。だけど、ここに来てよく分からなくなりました。勝つのか負けるのか分からない……そういう時が出てきたのです。そういう時はどうしますか遊都さん」

「自分のやりたいようにやる……最後は自分を信じるまでだ」

「自分を信じる……」


 教義には背いてしまいますね、とマリアロスは微笑んだ。


「運が良いか悪いかだけの……」


「遊都!」


 両手を合わせてバンっと巴が叩く。


「エーテルとは世界。転移者が出す世界。大気中のエーテルが誰かのものだったら?」


 遠くに離れていた2点が繋がる。


「まさか……あり得ない」

「あり得るのよ、遊都。そうなるとつじつまが全て合うの。トランプは大気中のエーテルが圧縮されたもの。大気中にあるのは魔力でもファンタジーのマナでもなく私たち転移者が発するエーテル。自分のエーテルのことは手に取るように分かる……だって私の世界ですもの」

「運を良くする……」

「運。そんな幻想は存在しない。……マリアロスは自分のエーテルで作られたトランプが何のスートで何の数字かが簡単に分かる状態だった。マリアロスの能力が運を良くするものではなくて……どこに何があるかが分かるものだとしたらやはりと言った理由が分かるわ」

「今までのプレイも、何故俺に勝ちを譲ろうとしたのかも、真城つばさに対して諦めていたのも……全て、全て腑に落ちる。自分の能力を全ては隠すため」

「そして、トランプは大気中のエーテルを圧縮したもので。魔王を再現したものだった」

「大気中のエーテル、トランプ、そして魔王のエーテルの出所が……マリアロス」


 顔を上げたら巴と眼が合った。




「まだ終わっていない」


 新幹線が名古屋から静岡に向かう。


 駿府。かつて真城つばさが異世界を渡る時に使った魔法陣がある場所へ。


 俺たちが地球に戻る為に使用した魔法陣が静岡にあった。


 離れていく平和な街並みを見ながら、あれは祝福ではなかったんだなと呟く。


「え、何?」

唯一神の神託プレイ・シージエ

「彼女はいい人のはずよね。孤児院をやっていて私たちが魔力草を採りに行く時だって祝福を……」

「その結果。俺たちは無限に沸いてくる魔物と闘うことになった」

「……そう、あれはエーテル溜まりだったからではなかったのね」



 あれは祝福なんかじゃない

 マーカーだったんだ。


 俺たちを殺すための。


「途中下車するぞ巴」

「当然っ!」


 巴を見ると眼に決心の炎が渦巻いていた。


「勝とう」


 今度こそ本当に。ぎゅっと巴の手を握る。

 握った先から俺たちはエーテルを重ね合わせていた。



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