2-5

部屋に戻った奏は、真っ直ぐにベッドへと向かう。


仰向けに体を投げ出し、枕を抱く。

考えることは、うたのことばかりだった。


━もう、好きじゃない。歌うことも、音楽も。それに私には才能なんて無いよ。ただの凡人。━


うたのメールを、何度も読み返す。


「そんな訳無いじゃない……。あなたが簡単に、歌を捨てられるわけ、ないよ……。」


溢れそうになる涙をグッと堪え、枕に顔を押し付ける。


「学園祭で、最高の演奏をしてやるんだ。それで、うたも、先生も音楽の世界に戻したい!」


奏の通う学校の学園祭は、国内屈指の音楽校だけあって、学生内の音楽のレベルも高い。

そんな中で、才能がなくても努力だけでもここまでやれる。人に響く音楽を奏でることができるんだ、と響に、そしてうたに教えたかった。伝えたかった。自分の演奏をもって。



「頑張らなくちゃ!学園祭まだ、日があまりないもんね!……でも、今日は寝よう。なんか、いろいろ……疲れた……」



今夜は、うまくいかないことだらけだった。

納得できないことだらけだった。


それでも、奏の気持ちは前を向いたまま。

ゆっくりでもいい。確実に、少しずつでも、前へ。

それがいつか、人の心を動かす原動力になる。

そんな自分の力が、音楽の力が、大切な人に何かを与えられる、その日を信じて……。

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