第1話 祭りは陽キャどもだけでやってな!オレは静かな空き教室に引きこもる!!

「勇者様!見てください、あれ!」

 少し前を先導するシスターアリスはいつもより興奮気味に俺に話しかける。その顔は相も変わらず美しい。全く恋愛感情はないが。

 「引っ張んなくても分かってる分かってる」

 シスターアリスは城下町に出ている出店にはしゃいでいる。子供か。

 今日は『女神ステラ感謝祭』という、この国で奉られてる女神を祭り上げる、どんちゃん騒ぎ祭の日だ。

 こんな馬鹿うるさい日は家に引きこもりたかったが、現女王であるクリスに呼ばれ、仕方なく町に出てきた。


 「というか、魔王が聖なる女神の祭に出てきていいの?」

 「その魔王と和解してしまった勇者がそれをいいますか?」


 巡廻(めぐりめぐる)

 一様、勇者だ。

 魔王関連の問題はもう解決済みだから、勇者職は休業中だが。


 そして、シスターアリスこと、魔王。

 俺たちは色々あって和平条約を結び、人間と魔族の長い戦いに終止符を打ったのだった。


 「魔族にも女神ステラを信仰している者はいますよ?彼女は運命と祈願の女神ですから」

 「へえ。そうなんだ」

 運命と祈願。

 大衆受けしそうな名目だ。だからこそ、この国で奉られてるのだろうけど。

 俺には関係ないけどね。神様を信仰したって、金や食事は出てこない。でも宗教の狂信者の話とかは好きだ。自分と奉ってる神が中心の世界だと考える人々とか、なんか笑えてくる。

 「ところでクリスは何のようでしょうかね」

 「そうですねえ…私と勇者である貴方を呼ぶのですから、何か重大な問題があった。と考えるのが妥当でしょうね」

 「俺、今、勇者休業中なんだけど…」

 重労働すぎる。

 勇者だからって、何でも出きる訳じゃないのだ。いや、まあ大抵のことは楽にこなせるけど

 「まあまあ、久々にオットさんとか、ノアさんとも会えるでしょう?」

 「あいつら、たまに仕事帰りとかに俺んち来るんだよ…出現率めっちゃ高いからね。ガチャだと絶対⭐️1だよ。⭐️1」

 オットとノアは俺の元パーティーメンバー…というより、魔王城に強盗にいったメンバーだ。

 オットは召喚士兼王族直属の召し使いの家系である。今は現王女であり、幼馴染みであるクリスに仕えている。なんでか、俺、めちゃくちゃ慕われてる。ほんとになんで?

 ノアは公爵家の次女で盗賊のくそあざとい少女だ。今は姉のミラと共に王室の研究員をしている。なんでも、犯罪防止の魔法の開発などをしているらしい。多分目的は自分の罪の証拠隠滅だろう。さすが、ナイスクズ!

 「あはは…でもほら、勇者パーティーの方々とかも…」

 「クリスはともかく、エリンとミラにはめちゃくちゃ嫌われてるんだよな、俺。主にエリンにだけど」

 俺を勇者パーティーから追放した張本人であるエリンは今トントン拍子に出世して王族の近衛兵になっている。俺のことを嫌っているらしく、会ったら殴りかかってくる。ほんとに、陽キャは怖い。まあ、大抵返り討ちにしてるけど。

 なんでこんなヒステリック陽キャのことをミラは好いているんだか。俺にはわからない話である。

 「あはは…」

 「気まずくなるなら、話、振らない方がいいですよ」

 そう、会話とは一方通行だと場が凍り始めるのだ。

 これは前の世界で学んだことでもあるのだか。

 「ほら、なんやかんや話してたら着きましたよ、王宮!」

 「俺。急に腹が痛くなったんで、帰って寝ていい?」

 「通じませんって…」

 シスターアリスは穏やかに微笑む。くそっ。相も変わらず美しい顔しやがってっ!

 いやいやながら、王宮へ一歩、歩みを再開するーー


 「依代に行ってきてくれないかな」

 「「………( ・◇・)?」」

 「だから、依代に行ってきてくれないかな」

 「「( ・◇・)?( ・◇・)?」」

 一様女王であるクリスに跪きながら、投げ掛けられた言葉に( ・◇・)?ってなる。

 まじで、何言ってるか、分からない。英語にすると『あいどんとのうゆーすぴーく』だ。多分。おそらく。しらんけど。

 「実はね。毎年神の依代には警備がいたんだけど、初孫が生まれたとかで有給とってるんだよね」

 「いや、祭りの時期考えろよ」

 クリスは玉座の上で頭を抱える。

 「そりゃ言ったけどさ。警備のおじさん、結構頑固だし。めんどくさくない?」

 知るか。

 そんな面倒ならクビにしてしまえ。

 「あの、それで何故私たちに?」

 シスターアリスが当初からの疑問をなげかける。そうだ。そこら辺の警備のじいさんでいいならこの国には吐いて捨てるほどいるはず…

 「みんなこのバカ騒ぎでまともに動けないんだよね」

 「この国、大丈夫か?」

 「勿論、非常時に備えて近衛兵とかはいるよ。ただ、持ち場を離れてかつ警備出来そうな人、なかなかいないな~って思ってたら…」

 「ちょうど暇を持て余していそうな2人を発見っと…」

 この国に労働基本法はないのか。はたまた、働き方改革の兆しはないのか。

 「めんどくせぇ…」

 「やってくれたら、前君が欲しがってた異世界に繋がる鏡のオークション頑張るから~」

 …!!………


 物で釣られるとは、俺もまだまだだ。

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