第1話 バンドの解散が音楽性の違いなら、勇者パーティーは価値観の違いだよね。

 「そんなことを召喚時から考えていたから、パーティー追放されちゃったんだよね」

  俺は今までの俺に起こった騒動を教会のシスターアリスに伝えていた。

 「それは、それは…なんと言うか、自業自得というか…」

 シスターアリスは困ったように苦笑いする。顔が良い彼女は困った顔もなかなか美しい。恋愛感情は微塵もないけど。

 「あの、勇者様はこれからどうなさるのですか?」

 『勇者』ねぇ。

  少し前まで俺の称号だった。今となっては『元勇者』だけど。

 巡 廻(めぐり めぐる)。

 異世界召喚なるものをして、現在19歳。

 何か気がついたら異世界にいたのだ。

 なんでもこの世界は魔王に攻めこまれているらしく、それを召喚でやってきた俺こと勇者に助けて欲しいとか。

  ここで1つ謎ができる。「なんで受け身なんだよ。自分たちの世界だろ。自分たちで何とかしろ」と。これを王様にオブラートに包んで言ってみると「冒険者はいるが、とても魔王には及ばない。城の警備のため、兵も動かせない」らしい。

 要は、『魔王は何とかしたい。けど、自分たちの安全は守りたい。そうだ、なにも知らない馬鹿な異世界人に行かせよう。死んでもまた召喚できるし』ということだ。

  ここで何を言っても無駄だ。そう思った俺は魔王と取引することにした。どっちみち、あの王様のもとじゃ、国が滅びる日も近いだろうし、まだ先の長そうな魔王の元へ…


 そして俺の望みは朽ち果てた。

  無理無理無理。魔王無理。さっきの通りだ。外見が無理。

 

 王様はクズ、魔王はキモい。

 どっちをとっても地獄だが、王様の方はまだ俺自身の生活が成り立つだろう。仕方がない。勇者をやってやろう。

 幸い、味方はすぐに見つかった。

 魔法使いのミラ、僧侶のクリス、戦士のエリン、召喚師のオット……いや、本当に強かったし、よく働いてくれた。

  しかし、旅とはそう簡単に行かないもの。人生においてもそうだ。仲間たちは俺の価値観が理解出来ないそうで、関係はギスギスとしていた。それでも、生計を立てるため、魔王を倒すため、何とか旅を続けた。

 そして、魔王討伐間近というとき…!!


 城の王様から呼び出しがあり、俺は単身で城へといった。するとびっくり。そこにはパーティーメンバーたちが!

 王様は俺に対し、偉そうな(実際偉いのだが)口調でこう告げる。「貴様のそのふてぶてしい態度、始めから怪しいとは思っていたが、貴様の仲間たちの密告により、魔族のスパイであると判明した!貴様を処刑してやる!!」と。

  俺はまんまとパーティーメンバーに嵌められたようだ。

 反論する気も起きなかったので、この国に『勇者補正・隕石落下!美しい眺めだった…』でも食らわせてやろうと思ったその時…

 「あ、あの、王様…処刑はその、やり過ぎじゃ…」と元パーティーメンバーの召喚師オットが言ったのだ。多分、俺の勇者補正発動を危惧したのだろう。その発言あってか、幸か不幸か、身分を剥奪されはしたが生き延び、悠々と暮らしていた……

 長い前置き終了。そして現在、教会でバイトをしている。生計を立てるためだから労働をしなくては…

 「ねえ、シスターアリス。いい働き口知らない?俺、別に神とか信仰してないからこのバイト、めっちゃ場違いだと思うんだよね」

 毎日毎日、迷える子羊の言葉を聞き、思ってもないようなことを言う……給料はそこそこあるが、何だか申し訳ない気で一杯だ。一様、まだ人の心があるもので。

 「そうですね…勇者様ほどお強いなら冒険者に戻るのが一番だと思いますが…」

 「え、俺多分国中に嫌われてるよ?」

 あの一件以降、俺=裏切り者の元勇者という共認識が国中に出来ている。今更なので気にはしないが、そんな人間に果たしてパーティーメンバーが集まるだろうか。

 あ、補足で説明するが、この世界は2人以上のメンバーがいなければ冒険者設定が出来ない。なるべく死なないようにするため、ギルドが作ったルールだ。ぼっちに厳しい。

 「………すみません、お役に立てず」

 シスターアリスが申し訳なさそうに言う。その表情はあいも変わらず美しかった。恋愛感情はないが。

 どうしたものか…

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