第41話

自室に出入りする人は、必要最低限にしている時雨。



しかし無名だけは特別で、部屋に連れ帰っただけでなく自分のベッドに寝かせていた。







「お前が面倒を見ろ」


「それはいいけど、病院とかに連れて行かなくてもいいの?」


「休ませとけば治る」





‥‥答えになってないんだけど。



でも、時雨は決して無名を無下にしているわけではないから、これ以上私が口を出すことではないか。










「大丈夫?」




仕事中に抜け出して来たらしい時雨が戻った後、目を覚ましたらしい無名に声をかけた。






 


「小夜さん?ここは‥‥」


「時雨の部屋よ。それより、容体はどう?」


「問題ないです」




青白い顔をしているくせに、無名はいつものように作り笑いを浮かべた。







「‥‥そうよね。あなたなら、例え大丈夫じゃなくてもそう答えるに決まってる」






聞き方を間違えた。



無名相手に意見を求めるにはどうしたらいいのか。








「どこか辛いの?私にしてほしいことは何?」




少し傲慢な尋ね方にはなってしまうが、こう言ったほうが無名は答えてくれるだろう。







「傷口が少し疼くので、手当てをしてもらえると助かります」




私の意図が伝わったのか、柔らかく微笑んだ無名。



大丈夫かと聞かれても、大丈夫としか言えない体質なんだろう。



だからこうして判断を仰ぐようにしたほうがいい。



こういった面では、私と無名は似ているんだと思う。



似ているからこそ、ある程度の思考回路が読めてしまう。

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